器好きを魅了する鎌倉の雑貨店『夏椿』の恵藤文さんが普段使う、作家ものの器とふだんの料理

同じ料理でも器が変われば味わいも違って感じられるもの。料理と器の相性、器同士の組み合わせを楽しんでいる、器好き4人のお気に入りを披露していただきました。

PROFILE

恵藤文/えとうあや

2009年、世田谷に器と生活道具の店「夏椿」を開く。2018年に鎌倉へと移転し、月ごとに企画展やイベントを開催する。

日々の食事は、異素材の器を並べて

鎌倉駅から源氏山に向かう住宅街の中、自然あふれる環境の古民家で器屋「夏椿」を営む恵藤文さん。

「器を扱う仕事なんで、気づくと自分自身の器もどんどん増えてしまいます。骨董品に手を出したいと思いつつ、際限なしに増えてもいけないと、最近は店で取り扱う作家さんのものを、展示会を開催する記念にと、我が家にひとつ迎えいれるのを楽しみにしています」

「夫とふたり暮らし」という恵藤さんが、日常的に使っている器をふだんのお料理とともに見せていただきました。この日はおにぎり、だし巻き卵、ほうれん草のおひたしを、庭でいただきましょうと。

籐の4段バスケットにおにぎりやだし巻き卵、ほうれん草のおひたしを入れて。陶器の平皿にミントの葉を浮かべた涼しげなガラスのボトル、そしてグラス。豆皿にはレンゲと箸を乗せ、ガラスのコップは木のコースターに。あえてバラバラの素材をテーブルに並べるのが恵藤さん流の日々の食卓。

「テーブルに並べる際は、いろいろな素材の器が並ぶと楽しいなと思い、料理を盛り付ける際に、あえて異素材を選んでいるかもしれません」

バスケットの良さは料理を詰めて運び、そのままテーブルに広げられること。ガラス、陶器、磁器、木工の器といった風に素材を揃えずに並べる技は、真似したくなるコーディネートです。

「素材も作家もバラバラ。それぞれが引き立て合い、違和感はないですよね」

さらに恵藤さんの器の一軍選手を見せていただきました。

お弁当が映えるうえ、 持ち運びが便利なカゴ

「カゴはグラスなどの収納にも使えるうえ、屋外では器としても重宝します。カゴに並べるだけで、サンドイッチやおにぎりなどを、とても美味しそうに見せてくれます」。左から、竹の3段バスケットは鹿児島で見つけたもの。持ち手のついたカゴと小さなカゴはタイで購入。

軽くて使いやすい、 温かみのある木の器。

乾いたものしかのせられないのかな?と思われがちな木の器ですが、恵藤さんいわく「油ものも大丈夫」と。右上から時計回りに、ボウルと広いリムがついた器は須田二郎さん。手前の2点は加藤良行さん。パンをのせたトレイは佃眞吾さん。原料の木材や木目で、器の表情や味わいが変わるのも、木の器の魅力です。

食卓に涼しげな印象をもたらすガラスの器。

「ガラスの器はお料理を限定するかなと思いがちですが、意外と応用範囲が広い器です」。大きな丸皿には果物、ソーサーとカップの色合わせが魅力の器は、かき氷をサーブしたことも。どちらも辻和美さんのガラス器。手前の透明のコップと器は、ガラス面のゆらぎが魅力という谷口嘉さんの型吹きガラス。

ホームパーティーの名脇役となる大きな器

「用途がいろいろ考えられる大きな器、試行錯誤せず、手に取れる白い器、料理を作ったまま、食卓に置ける鉄の器や、一枚あるだけでテーブルが華やぐ絵皿も好きです」

鉄の器はあまり見慣れないものですが、実は調理器具も兼ねているのです。成田理俊さんの鉄の皿は、そのまま火にかけて野菜や肉を炒め、菜箸でちょいちょいと形を整え、熱々の状態でテーブルにサーブできるので忙しい日にも便利です。またどんな料理にもあわせやすい白の器を一気に並べたところ、色や素材で表情が違うと気づきました。白の器は和洋ともに使え、デザートにも活躍。

「クリームあり、真っ白あり、また貫入が浮かび上がってきた白い器もとても愛おしく、テーブルの上に白い器だけで料理を並べてみるのも面白そうだなと思いました」

さらにシノワズリ的な色絵の器も、丸、角形、菱形と豊富に揃っています。

「かわいらしいものがあまり好きでないので、花の絵柄も大人っぽい、いい塩梅なものを選びます。海外で買ったものや、夏椿で展示をした伊藤聡信さんのものが多いですね。絵皿は小ぶりなものは銘々皿に、大きめは一点豪華主義で使い、残りは無地や木工でまとめ、あくまで料理を主役にする使い方をします」

ホームパーティーの名脇役となる大きな器。

「大きな器は、来客時の大人数の料理にも、ふだんのキッチンでも大活躍します」。右上から時計回りに、初夏には花を浮かせて縁側に置いたり、果物を入れたりと用途が多い、蠣﨑マコトさんのガラスの器。色の塩梅やかわいすぎない絵柄が好みという伊藤聡信さんの中鉢、煮物や炒め物に大活躍する市川孝さんの鉢、美しい灰の釉薬でおかずが映える安齋新・厚子さんの皿。果物も野菜もごろんといれただけで様になる須田二郎さんの木のボウル。

そして料理が映える器選びについて話をうかがいました。

「伊藤さんの色絵のお皿は、ちらし寿司をのせて、錦糸卵の黄色、サヤエンドウの緑を絵に合わせるときれいだなと。器の色と素材を合わせるのも、色絵を選ぶ楽しさです」

そして作家ものの器には大量生産製品にはない強さが魅力だと。

「作家さんの器はどれも力が強いので、私の料理の出来がかなり助けられています。焼き魚をのせただけでも、それなりに見えますから。そして器を何用と決めず、いろいろな使い方で楽しむのが私らしさかなと思います。ガラスの大きな器は水を張って花を浮かべたり、夏はスイカを冷やしたり、お酒をいれてワインクーラー代わりにしたり」

自分流の使い方が思いがけない料理との出合いを生み出し、使い方が広がって楽しいと。それを店のディスプレイをしながら考え、店でお客さんと話しながら思いつくのが何より楽しいと、恵藤さんは語ります。

白の器といえど、その表情には千差万別の魅力

「白は日常使いの器の代表格ですが、こうして並べると、いろいろな色や質感があるのも魅力です。豆皿は醤油や薬味を乗せたり、箸置きがわりにも」。

1・4.安藤雅信さん、2・3・5.安齋新・厚子さんの米色青磁のオーバル皿やその他。6・7.竹下努さんの青白磁の小皿。8・9.林拓児さんの貫入角皿やオーバル皿。10市川孝さんのどんぶり。

テーブル上では、一点豪華主義で使う色絵の器

「テーブルの上ではポイントで使うことが多い色絵の器。白地が多いもの、柄や色が多いもので印象が違いますね。旅先の古道具屋さんで色絵の器を探すのも楽しい」。

1・2・3・6.伊藤聡信さんの色絵の器。4・7.れんげと豆皿は台湾にて購入。5.変形菱形がかわいい皿はベトナムにて購入。8.銘々皿として使いやすい丸皿はマレーシアで購入。

調理したままサーブできる、便利な鉄の皿

フライパンが大人気の成田理俊さんの鉄器。「調理ができる上に、そのままテーブルに置いて器として成り立つデザイン性が大好きです。炒め物はもちろん、大きな鉄皿ではすき焼きをしたり、グラタンを作ったり。もちろんオーブンにも入れられます。平らなお皿はトレイとして、お茶だしにも使っています」

『クウネル』2023年7月号掲載
写真/柳原久子、取材・文/今井 恵、矢沢美香

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『クウネル』No.121掲載

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