【清水ミチコさん】永遠のライバル&バイブルとなった一冊、和田誠さんの『倫敦巴里』
ふとしたきっかけで読んだ本が、その後の生き方に大きな影響を与えていたり、転機になったり......。今回は清水ミチコさんが長い人生のなかで指針にしてきた本、運命の出合いをした本について伺いました。
PROFILE
清水ミチコ
得意のモノマネをはじめ、多彩な芸でテレビやライブ等で幅広く活躍。
永遠のライバルであり、励みになるバイブル
「旅先で、言葉がわからない外国でも図書館を訪れるのが楽しい」と話す清水ミチコさん。本に囲まれるとパワーをもらえるといい、読書は一日の中の句読点としてくつろげる時間だそうです。
そんな本好きの清水さんの人生に大きな影響を与えたのが、和田誠さんの『倫敦巴里』。グラフィックデザイナーとして活躍した和田さんが、誰もが知る童話や名作映画、文学作品をもじって遊ぶ贋作集です。
「痛快なパロディがぎっしり。なのに表紙は澄ましていて『面白いことが書いてありますよ』なんて顔はちっともしていない。和田さんならではの品のよさがあふれていますよね」
そもそもこの本と出合ったのは、デビュー前の20歳頃といいます。「書店で見つけて中を開いたら、あまりの面白さに大人の遊びってすごい!と衝撃を受けて。当時、同世代の友人たちがおしゃれに関心がある中、ラジオや雑誌の投稿に夢中になっている自分は少し変わっているのかな?と感じていたのですが、この面白さに勇気をもらい、『いや、正しいぞ』と思わせてくれました」
みんなが共感して笑ってくれるものを作りたい。若い頃の清水さんの夢を後押ししてくれた一冊は、モノマネする対象の切り取り方や遊びの利かせ方など、今の芸風につながるヒントもたくさん。デビュー後も何度も読み返し、常に傍らにある存在でした。そして憧れの和田さんと親交を持てるようになったのもこの本のおかげだそう。
「30年近く前、週刊誌の企画で『私の本棚』という取材を受け、それをきっかけに対談が実現しました。和田さんは音楽や映画、文学への知識が豊富で、いかに面白くするかという視点も洒落ていて。でも面白いでしょと押しつけるところがなく、ご本人がいちばん楽しんでいるような方なんです」
そんな人柄に魅了され、愛読してきた本が一時期絶版に。再版が決まったときには多くの人に知ってほしいと、コメントを寄稿したそうです。
「パロディが好きな人間にとって、神聖なものに対して冷やかしや遊びを入れるというのは、いちばん目指したいことなんですが、それをさらっとこなしている。まさにこの本は私にとって永遠のライバルで、かつバイブル。超えられないからこそ、がんばろうという励みにもなっています」
関連記事はこちら
『ku:nel』2023年1月号掲載
写真/玉井俊行、取材・文/薄葉亜希子、編集/河田実紀