作家・吉本ばななさんの“これから”とは?フルスロットルで働いた若き日々。そろそろ隠居してもいいのかも
23歳で作家として華々しいデビューを飾った吉本ばななさん。世界中に翻訳され多くの読者の心をとらえてきた作家の「これから」とは?
吉本ばなな/よしもとばなな
1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。著作は30か国以上で翻訳出版され国内外での受賞も多数。2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。近著に『吹上奇譚 第四話 ミモザ』など。
そろそろ隠居に向かっていきたい
小説『キッチン』でデビューして30年以上。数多くの作品を生み出し、国の内外を問わず愛読され、また文学の賞もあまた受けてきた吉本ばななさん。「自分でもよく働いたなぁ、あんなにも働いてよく死ななかったなぁ、と思うんです」というほど忙しく、小説を書き、旅を重ね、母として子育てにも注力してきた歳月でした。
「若いころは初めてのことは何でもやってみなくちゃ、と無茶もしましたけれどそろそろ隠居に向かっていきたいのです。見聞を広める時期は終わったのかもしれないと思います、時代の変化は感じていたいけれど」
吉本さんが隠居!と驚いてしまいますが、確かに来年には還暦を迎え、子育てや家のローンの終わりももうすぐそこ。仕事も日々の暮らしも無理のないペースで進めるのが当たり前の道筋なのかも。
でもそれは吉本さんの文章が読めなくなるということでは全くないのでご安心を。吉本さんにとっては書くことは、「負担でもなんでもなく、ごはんを食べることと一緒。どんな状況になっても書くことはずっと続けていくと思います」
なにしろ、自分は文章を書く人として生きていくと思い定めたのが5歳のころだったという早熟さ。「他にできることがなかったから」と言いますが、そんな幼い子ども時代の決意からずっと、書くことは吉本さんの人生の土台であり続けてきました。
「別に何かを伝えるとか、届けるという意図があるわけではないんです。お説教とか意図的なもので人の心は動かないし。ただ、私が書いた小説やエッセイが読者の方のそばにあって、ちょっとでも救いになったり、役に立ったりできれば、それでいいのかなと。自分自身、本や漫画、音楽や映画といった芸術というものに本当に救われて生きてきたんです。私の書いたものがそのはしっこを担うことができればいいな、とは思っていますね」
本当は昼夜逆転生活が理想という完全な夜型。夜が深くなるほど元気になるのだとか。家族が寝静まった静かな家で、今夜もパソコンに向かって......ご隠居さん志願の小説家はさて何を書きつけているのでしょう。
『クウネル』2023年5月号掲載
取材・文/船山直子 写真/©Fumiya Sawa
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