庭でとれた果物をジャムにし、裏山でとれた野草を化粧水に。そんな自然とつながる暮らしを葉山で送っている伊藤千桃さん。お金をかけずに豊かに暮らすことを突き詰め、楽しんでいます。
葉山の山の上で、自然の恵みを存分に活用して暮らす、素敵な女性がいると聞き会いに行きました。ノーメイクだという肌はピカピカ、長年着ているというニットとデニムがよく似合うとてもナチュラルな人でした。
24歳の時に結婚し、一男一女に恵まれましたが、四十代で離婚。
「生活観の違いを感じて……。もやもやを感じ、旦那さんの悪口を言いながら暮らすのは嫌だなって思って。じゃあ、お金もいらないから別れましょうと私から切り出したのです」
その時、特に仕事をしておらず、周囲からは自立して暮らしていけるのか?と心配されましたが、「なんとかなる」と持ち前の前向きさで踏み出したのです。
自分の元にあるのは、葉山の一軒家と広い庭。得意なのは料理。それを生
かしてできることを、と思いついたのが、自宅をレストランにすることで
す。途中で形態を変え、いまは民泊とお弁当ケータリングを主にしています。
「お金はあった方がいいにはいいけれど、私自身はほどほどでいいと思っています。無ければ〝なんとかなるようにしよう〟と頭を使って、工夫をするようになりますよね。それが面白い」
そういうささやかな日々のなかで、美しい自然に目はいき、豊かな恵みを生かすことがライフワークとなりました。庭で育てた野菜や果実を料理にし、野草はお茶にし、ハーブを化粧品に……。四季の移ろいを愛で、季節を味わう日々にこそ幸せを感じているといいます。そんな暮らしは次第に人々の 憧れとなり、昨年『千桃流・暮らしの知恵』として、一冊の本にまとまりました。サブタイトルは「贅をつくさず、精をつくす」。家で、庭で、手を動かしているのが何よりも楽しいという伊藤さんをよく表した一言です。
→後編に続きます。
伊藤千桃/いとうちもも
屋号「桃花源」の名で、神奈川・葉山の自宅をベースに、お弁当
ケータリング、バーベキューサービス、民泊などを行う。著書に『千桃流・暮らしの知恵』(主婦の友社)が。instagramは@
toukagenhayama
ku:nel 2020年5月号掲載
写真 砂原文/文 鈴木麻子