〈クウネル・サロン〉プレミアムメンバーの那須明美さんはケア・マネージャー歴20年と、介護の現場の大ベテラン。介護世代でもある「マチュア世代」のために、月に一回のペースで介護のお話をしていただきます。
「介護を頑張るあなたへ」
このテーマを受け取ったとき、那須さんは「こころ穏やかに過ごしていますか」と〈あなた 〉 に問いかけたくなったと話します。
「介護を受ける本人に笑顔で過ごしてもらうには、まずは介護を担う側が心穏やかであるべきです。心が穏やかであれば、気持ちに余裕が生まれ、笑顔で人に接することができます」
とはいえ現実にはそう簡単にはいかないもの。親や配偶者が年を重ねるにつれ、体が思うように動かなくなり、今までできていたことができなくなったり、物忘れが進み、理解力も衰えて会話が噛み合わなくなったり…。
「そうした変化に直面すれば誰でも不安な気持ちに押しつぶされそうになり、心穏やかどころではありません。本当は変化を受け止めて優しく接したいのに、ついイライラして、お互いが辛い思いをすることも」
#1 老いを受け止める心をもって
「そんな時はデイサービスなどの利用で少し距離を置くことをおすすめしているのですが、ときにはデイの入浴時に体の痣が発覚することもあります。見逃せないような状態の場合は、それ以上エスカレートさせないために話し合いの場を設け、デイサービスやショートステイを増やして、家族が自分の時間を取り戻せるように提案します」
病気入院を経て要介護になる場合と異なり、物忘れが少しずつ進行していく場合は、老いや認知症をすんなり受け止めることは難しいもの。
「だから私は、物忘れが認知症という病だと認識してほしくて、会話の中でもあえて『病気』というワードを出すようにしています。それでも受け止めてもらえない場合は病院で先生から話してもらうケースもあります」
#2 介護の大変さを共有して心を軽く
「また介護の大変さをひとりで抱え込まずに、共有できる人をもつことも心を穏やかに保つためには必要。『聞く耳をもつ』家族がいれば、愚痴をこぼすだけでもいいし、そうでなければ地域包括センターが主宰する『介護者教室』などに参加をするのもおすすめです。同じ境遇の人となら話しやすいし、紹介して足を運んだ人のなかには『私だけじゃない』『もっと大変な人もいるんだ』と大変さを共有できて気持ちが軽くなったという方もいます」
#3 自分の時間をもつことが大事
「そして自分の生活の中で、介護が100%にならないようにすることも大事。友人と食事をしたり、好きな音楽を聴いたり、ゆっくり読書をしたりと、たとえ半日でもご自身の時間を過ごしてほしい。家族の協力が得られるなら時どき代わってもらったり、難しければ介護サービスを利用しても。ショートステイは何かあったときのためと思っている方も少なくないですが、家族がひと息つくために使ってもいいんです」
#4 ときには“喧嘩”だってアリ
「私は介護に正解はないと感じています。だから時には腹も立ち、辛く当たってしまうこともアリだと思っています。『ついカッときて、口にしてはいけないようなことを言ってしまった』と悔やむ方もいますが、それはそのときの正直な気持ちだし、それでいいと私は思っています。でも次の日は笑顔で「おはよう」から始まり、大きな失敗も笑って過ごせたら素敵だなと感じています」
取材・文/佐々木信子(tampopo組)