次々に話題作が登場する新書の中から、ノンフィクションの河合香織さんにおすすめをうかがいました。「思いもしないことが次々に起こる現代社会に私たちはどう対応していくべきか。そのヒントが詰まった3冊です」
河合香織/かわいかおり
コロナ対策専門家会議の発足から廃止までを追いかけた『分水嶺』(岩波書店)が話題に。現在その後を『世界』で連載中。
『「利他」とは何か』
伊藤亜紗(編)
『生物はなぜ死ぬのか』
小林武彦
『「利他」とは何か』はコロナを背景に注目を浴びる利他主義を考える本。
「見返りを求めたり、善意で他人を支配する利他ではなく、予測を裏切る反応も受け入れ、同時に自分も変わっていくだけの余白、ここで言う〝うつわ〟が大事だというのが5人の著者に共通の視点です。この中で自然界の相互扶助に触れていますが、『生物はなぜ死ぬのか』は生物はまさに利他、次世代のために死ぬのだと説いています」(河合香織さん)
生物の誕生と進化は奇跡的な偶然の積み重ね。細胞単位で起きるエラーが生物の多様性を生み、地球全体が変化と選択を繰り返し、死ぬことで進化してきたから、今ヒトは生きていられる。生物学者の著者はそう言います。
「確かに多様性こそが予測不可能な社会で生き残る術。死は決してネガティブなものではないと思えます」(河合香織さん)
『出生前診断の現場から』
室月 淳
一方、『出生前診断の現場から』が示すように、出生前に遺伝子検査で子どもの障害の有無を知ることは、多様性を損なう可能性も。
「検査の是非の結論は出ませんが、大切なのは自分自身で決定すること。たとえ間違って苦しい状況を招いても、自分の選択であれば納得できる。私も誤りや間違いのある人生を肯定するような作品を書いていきたいですね」(河合香織さん)
取材・文/丸山貴未子 再編集/久保田千晴