ミュージシャンで文筆家・猫沢エミさんの著書『ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる。』(TAC出版)が話題です。タイトルの”ねこしき”とは、猫沢さんのしきたりを短くしたもの。その名の通り、50歳を迎えた猫沢さんがありのままを綴った文章が、同世代の女性の共感を得ています。そんな猫沢さんの日々の暮らしへの向かい方と、自分のために作る料理のレシピをご紹介。シリーズの最後には、猫沢エミさんの特別インタビューも。
猫沢エミ
ミュージシャン、文筆家、映画解説者、生活料理人。2002年に渡仏。2007年より10年間、フランス文化に特化した《Bonzour Japon》の編集長を務める。超実践型フランス語教室《にゃんフラ》主宰。著書に『東京下町時間』『フランスの更紗手帖』(ともにパイ インターナショナル)など多数。8年ぶりの新装版復刊となる『猫と生きる。』(扶桑社)が、9月24日に発売。
あらすじ
ーー18歳で上京、26歳でシンガーソングライター兼パーカッショニストとしてデビューした猫沢さん。36歳のときに家を購入し、当時の彼とヨーロッパ製のバイク輸入会社を立ち上げました。
次第に会社が傾き、10年暮らすつもりだったパリから引き上げて、会社を縮小。彼との関係も良いものではなくなり、病を患って2年連続の手術……。3年ほど身動きがとれない日々を送った矢先に、愛猫のピキがこの世を去ってしまいます。
健康も、仕事も、お金も、愛も、全部失ったという猫沢さんが、気づいたこととは?
自分といることを楽しむ
先に話した30代終わりで受けた2回の手術が、どちらも子宮の病だったこと。そして、子どもが生める年代にパリと東京を往復して、自分の人生を組み上げることに時間を使ってしまった。
それゆえ現在50歳の私は、子どものいないひとり身だ。
この4年間に、両親も相次いで見送った。ときどき、家族を持っている友人のお宅へ行って、その温かな空気に触れると気持ちがいいと素直に思う。
でも、それを羨ましいとは思わない。今ある私は、私自身で決めたすべての選択の果てにできている、と知っているから。もちろん、ひとり暮らしが寂しいと思う日もあるけれど、誰かと比べて羨ましがるのは、まるで《かもめは空が飛べていいな》の空想と同じだ。
人生の逃亡生活をやめた頃、私は体のために食生活全般の見直しを始めた。
お金がほんとうになかったから、買える食材も限られていて、しかもなにひとつ無駄にせずに使い切るために、結果たくさんのレシピを生み出すことになった。命ある食材に触れ、その声を聞きながら、新鮮な青菜を色よくゆでる。くるみを刻むなら、香ばしく食べ応えのある大きさはどのくらいだろう……。
私が生きるために日々命を捧げてくれる彼らのメッセージを受け取るたびに、すっかり聞こえなくなっていた自分自身の声が聞こえてくるようになった。楽しかったり、辛かったり、嬉しかったり、哀しかったり、日々の声たちはどんなときもとても豊かな色をして、私自身に、長いあいだ目を向けてもらえなかった胸のうちを語るのだった。
そのときだ。生まれてはじめて、私が私を現実の姿から 1mmも違わずに愛してあげられたのは。
お弁当屋さんでのアルバイトを辞めた。そうして心から自分を許して、不眠不休の本業へ復帰した激務期を支えてくれたのも、日々の食事だった。
くるみ春菊アンチョビのポテトサラダ
材料(2~3人分)
じゃがいも…中3個(400g程度)
玉ねぎ…1/4個
春菊…1茎
無塩バター…大さじ2
塩…小さじ3/4
アンチョビフィレ…2枚分
アンチョビの漬けオイル…小さじ1
くるみ…20g
マヨネーズ…大さじ2
プレーンヨーグルト…大さじ2
白胡椒…少々
作り方
1)玉ねぎは薄切り、春菊は長さ3cmほどに切る。くるみは包丁であらく刻み、アンチョビは細かく刻んでおく。
2)じゃがいもは皮のままひたひたの水に入れ、30分ほどゆでてからフォークなどに刺して、熱いうちに皮をむく。
3)ボウルに皮をむいたじゃがいもを入れて軽くつぶしながら、まだ熱いうちに玉ねぎ、春菊を先に混ぜ、バター、塩、アンチョビとオイルを手早く混ぜ合わせる。
4 )マヨネーズ、ヨーグルト、白胡椒、くるみを入れてよく混ぜる。
※本記事は『ねこしき』(TAC出版刊)からの抜粋です
絶賛発売中!
ねこしき 哀しくてもおなかは空くし、明日はちゃんとやってくる
食べることは生きること。
料理のプロではなく、日々をよりよく生きるために食べ物をこしらえる生活料理人。自身のことをそう語る、50歳を迎えた猫沢エミさんの、生き方を紹介する一冊。
『ねこしき』(TAC出版)
撮影:鈴木陽介
構成:赤木真弓