「第二のニセコ」と呼ばれ、注目を集める長野県・野沢温泉村。
人口約3500人に対して、冬は外国人も含めた述べ60万人の観光客で賑わいますが、もともと豊かな自然と温泉に恵まれているこの地で、雪のないシーズンも注目を集めているのが、『LIFE FARMING CAMP』です。
“生き方を耕す“という意味を冠するとおり、野沢温泉村の小さなオーガニックファームを舞台に、循環型の農的暮らしのすばらしさを体験できます。
東京からは北陸新幹線で約2時間弱。都市部では体験できない、新しいアグリツーリズムの魅力をお伝えします。
“東京から2時間ちょっと”で、日常をリセット
東京から北陸新幹線に乗って1時間50分で、飯山駅に到着。送迎のマイクロバスに乗り、野沢温泉村までは20分ほどです。目の前に広がる山々や森の景色があまりにパノラマで、日常や仕事脳が気持ちよくリセットされていきます。
『七良兵衛(しちろへい)珈琲』という村のハブ的カフェでチェックインしたあとは、現地のスタッフから簡単なオリエンテーションを受けます。
『LIFE FARMING CAMP』の仕掛け人は、現地のネイチャーガイドや、毎日の「つくる・たべる・はたらく」がオモシロくなるインターネット農学校『The CAMPus』、エンターテインメント&アートのプロデュースなどを手掛ける『WATOWA INC.』の小松隆宏さん。
プロスキーヤーであり、野沢温泉観光協会会長でもある河野健児さんを中心に、地元で人気のレストランやショップオーナーたちとチームを組むことで、単なる観光誘致ではなく、地域の新たな魅力をさまざまな角度で伝えています。
今回、私たちが体験したツアーは、1泊2日のコース。寝袋やテントなど重たいキャンプツールは一切不要とのことで、1泊2日の気軽な旅行セットでやってきました。受付でマップや旅のしおりとともに、オリジナルの水筒とタオルを受け取ります。
ツアー中はこの水筒を持って、村にいくつかある湧水を汲みに行きます。まずは名水〈八幡清水〉の湧水汲みからスタート。
海はないけれど“ビーチ”はたくさんある野沢温泉村
マイクロバスで移動する途中、ネイチャーガイドを務める池田和夫さんも合流し、一同「ブナ林ハイキング」へ。
「長野県に海はないけれど、“ビーチ”はたくさんあるんですよ」という池田さんの言葉を不思議に思いながら、冬は5m前後の雪が積もるという自然公園の一部を、1時間ほど散策していきます。
“野沢温泉村の始まりを知る”という副題をもつ「ブナ林ハイキング」も終盤。
ナビゲーター・高野さんが「デザートはミルフィーユです」と切り出してくれた土の塊は、ブナ林の湧水の循環を物語るものでした。
「昨年落ちた葉っぱが分解されて幾層もの土となります。雨水はブナの葉の葉脈からつたって地面に落ち、このなかを水が通って、地下の水源を巡り、40年後に湧水として、50年後は温泉水として、循環していくのです」と、ネイチャーガイドの池田さん。
さらに、ブナの木は英語で「beech(ビーチ)」と書くことも教わり、「海はないけれど“ビーチ”はたくさんある」というお話を思い出しました。
野沢温泉のブナは一部が禁伐林で、4年に1度、種を落とす用のメインの木を残すことで、この循環の仕組みも守られているそう。
食とエネルギーの循環を体験する、自給自足キャンプ
ハイキングの後は、『LIFE FARMING CAMP』の肝となる、1日1組限定のプライベートキャンプ『NOZAWA GREEN FIELD』へ。
森のなかの荒れていた場所を再利用し、建築材として余った間伐材を使用し建てられたデッキとツリーハウスを中心に、テントが張られています。
「ツリーハウスを構えるにあたり、生きている木には直接クギを打たず、あて木で固定する“サンドイッチ工法”を採用しています」とナビゲーター・高野さん。
木々を張り巡らした複雑な構造から、自然との共生が生み出す温もりが感じられます。
湧水で淹れてもらったコーヒーでひと息ついたあとは、参加者でテントを立てていきます。
テントや寝袋、ポータブルランプやモバイルバッテリーなどはすべて揃っており、テント張りの指導などもナビゲーターの方が付き添ってくれるので、キャンプ初心者や家族で参加される方も安心。
エアベッドも1人1つ貸してくれるので、寝心地も抜群です。
『NOZAWA GREEN FIELD』はインフラの設備が無いため、電気は太陽光発電で蓄電、水はキャンプ場併設の湧水を汲んできて利用するなど、自給自足を体感できる場でもあります。
生ゴミはもちろん、排泄物も1年越しでコンポスト利用され、隣接する自家農園の肥料となり、参加者による農作業体験も可能です。
30余りの源泉と13か所の外湯を有する「野沢温泉村」
夕食前に、徒歩10分ほどの野沢温泉巡りに向かいます。
30余りの源泉があり、13か所の外湯と呼ばれる共同浴場がある「野沢温泉村」。
弱アルカリ性の100%天然温泉で、場所によってはかなり熱い温度で入浴することになりますが、出た後は体の芯からぽかぽかに温まり、お肌もツルツルに。
地産地消×シェフが織りなす、アウトドアディナー
夕食は、シェフを招いてアウトドアディナーを一緒に作ることが可能です(別途オプション)。
今回は、チェックインでお世話になった『七良兵衛珈琲』の平原孝将シェフが、デッキで料理を披露してくれました。
自然に囲まれながら、プロの料理を味わえる贅沢な時間です。
ディナー後は、みんなで焚き火を囲んで団欒。
こちらでシェフ特製のデザートを食べたり、ワインやコーヒーを飲んだりと、寝る前の自由な時間を楽しみます。
2日目は、名寺で座禅と、湖畔でサウナ体験を
エアコンがなくとも適度に涼しく、鳥のさえずりが耳に心地よく、都会では考えられないような清々しい気分で目覚めました。
キャンプ場から20分ほど歩いて、野沢菜発祥の地としても知られる健命寺で、座禅と読経を受けるプログラムに参加。
時間の流れをゆっくりと感じながら、心に真っ直ぐ向き合える貴重なひとときです。
こちらでは、水着に着替えて湖の上でサップを楽しみつつ、水着のまま入れる移動式サウナでひと汗かきます。
野沢温泉村まで戻ったら、手作りジャムが人気の『ハウスサンアントン』などでお土産などを購入し、チェックアウト。
マイクロバスで飯山駅まで送っていただき、ツアーは解散となります。
今回、1泊2日にも関わらず大充実の時間を過ごせたのは、東京から2時間ちょっとで行ける野沢温泉という場所柄と、地域を知り尽くしたスタッフたちのアテンドゆえ。
煩わしいキャンプ用具や荷物を準備することなく、気軽に大自然のなかに飛び込めるうえ、グランピングではなし得ない農的暮らしのすばらしさも、体験させてもらいました。
これからの季節、野沢温泉村は晩夏も比較的涼しいため過ごしやすく、キャンプと温泉に最適の秋を迎えます。
日本の新しいアグリツーリズムの形を体験しに、訪れてみるのはいかがでしょうか。
LIFE FARMING CAMP in NOZAWA-ONSEN
開催期間:2022年6月1日~10月31日
料金:1泊2日 50000円/人(6名以上~・税込)
※ディナーやアクティビティはオプション
取材・文/藤井存希