パリの街角でイケてるムッシュに聞いた【フランスのことわざ1】日仏の違いは言葉のチョイスにも

ことわざは国の文化や国民性を反映します。フランスのことわざとはどんなもの?
素敵なムッシュが集まるパリのマレ地区で、彼らが仕事や生き方の信条とする言葉を取材しました。

一瞬一瞬を大切に、思い切り人生を楽しむ。

パリの街角で声をかけたムッシュたち。彼らが心に抱くことわざは、実にさまざまなものでした。その中で印象に残ったものを、ご紹介しましょう。

「雨の後は晴れ」は慰めるときに使います。発祥は13世紀の古いことわざですが、フランス人の友人に悩み相談をした際にこの言葉をかけてもらい、素敵な励ましだな、と嬉しくなったことがあります。

日本の「一期一会」にあたる「人生に一度」は、出会いを大切にするフランス人が好みそうな言葉。パリの人々は、カフェやバーにおいてはもちろん、バスやメトロの中で隣り合った人とフランクに話し、友人、さらには恋人まで発展することもあります。余談ですが、パリでは「恋人がいないなら犬を飼いなさい」というのが通説。散歩中に犬同士が仲良くなり、そこから恋が生まれることが多いそうですよ。

「人生一度きり」は、古代ローマの詩人ホラティウスの言葉「Carpe diem, quam minimum credula postero」に由来します。訳は「先を心配せずに今日一日を大切にし、翌日のことをあまり信用しないように」。時間を最大限に活用し、楽しむ機会を明日に先送りしない方がいい、という意味です。このことわざを聞いて思い出す出来事があります。

初夏の週末に、フランス人夫妻の別荘へ一泊旅行に招待されました。ところが日曜日の夕方になっても彼らは庭でおしゃべりに興じ、帰る様子がありません。別荘の場所はパリから車で2時間ほどの距離。渋滞が心配になり、何時に発つのかムッシュに尋ねたところ「この美しい太陽を楽しもう。人生は一度きり」との答え。時間を気にする日本人と、今を楽しむフランス人との気質の違いを実感しました。

フランス人にとって大切なのは、人生を享受すること。心配ばかりしてストレスを溜めるより、楽しいことやその瞬間に集中して生きる。まさに「ケセラセラ」な姿勢を見習うべきかもしれません。

文 木戸美由紀

木戸美由紀/きど・みゆき

みゆき堂代表。パリを拠点に日本のメディアへ寄稿を行う。『アンド プレミアム』に「木戸美由紀のパリところどころ案内」、Webメディア『SUMAU』に「フランスの暮らしとデザイン」を連載中。

1_「何事も過剰は有害である」

Paul Kruise(ポール・クルーズ)さん
デニムデザイナー 61歳

何事も過剰は有害である
L’excès en tout est un défaut

日本のことわざ「過ぎたるは猶及ばざるがごとし」と同義語。「この言葉と、ドイツの建築家でバウハウスの校長を務めたミース・ファン・デル・ローエの名言『Less is more』(少ない方が豊か)がポリシー。仕事ではシンプルなデザインを追求。私生活では本当に好きなものを選び、最小限のものとともに、心地よく暮らします」

2_「何もしなければ何も手に入らない」

Eric Becart(エリック・ベカール)さん
会社経営 58歳

何もしなければ何も手に入らない
On n’a rien sans rien

輸入業、コンサルティング、印刷会社の3社を営むエリックさん。「このことわざは『利益を得るには努力や犠牲が必要。望むもののために戦わなければならない』という意味。人生における哲学です。心の中にこの言葉を据え、日々努力をしながら戦ってきました。仕事で満足できる結果を出せたのは、この言葉のお陰かもしれません」

『クウネル』2025年7月号掲載 写真/新村真理、コーディネート・取材・文/木戸美由紀、編集/矢沢美香

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