小池アミイゴさんが選ぶ絵本の中の大切な言葉4。自由に旅をして、やさしい気持ちや穏やかな会話が生まれる絵本

子どものときに出合って心の奥深くに刻まれたあの言葉。大人になって、自ら選んだ本の中で巡り合った忘れがたい文章。絵本に書かれた美しく印象的な言葉は、読者の心にずっと寄り添い続ける人生の宝物です。絵本好き、小池アミイゴさんに聞いた珠玉の言葉集です。
本当の自由を、情報でなく実感でつかむために。
\言葉1/
『夜をあるく』 マリー・ドルレアン 作/よしい かずみ 訳/BL出版 より

ここに あるのは とほうもない しずけさ。

『夜をあるく』
マリー・ドルレアン 作/よしい かずみ 訳/BL出版
夜中に家を出発して歩き始める4人の家族。昼間とは違う静けさ、暗さがあるからこそ際立つ星明りのきれいさを感じながら歩みを進める。「どの言葉も絵も美しい。夜が更けて、また朝がやってくる。一日ってなんだろう、それは人生ってことなのかもしれないです」
忙しい日常、氾濫する情報の中で子どもも大人もアップアップしている今という社会。親子で、あるいは一人で絵本を開く時間は、世界の騒音から離れた特別な時間をもたらしてくれます。
「本の中で自由に旅をして、やさしい気持ちになったり、穏やかな会話が生まれたりする、そんな4冊を選びました。いい絵本は大人も子どもも帰ってこられる大切な場所だと思うのです」と小池アミイゴさん。
\言葉2/
『世界はこんなに美しい アンヌとバイクの20,000キロ』
エイミー・ノヴェスキー 文/ジュリー・モースタッド 絵/横山和江 訳/工学図書(山烋のえほん)より

世界は美しくあってほしい。
そして、世界は美しかった。

『世界はこんなに美しい アンヌとバイクの20,000キロ』
エイミー・ノヴェスキー 文/ジュリー・モースタッド 絵/横山和江 訳/工学図書(山烋のえほん)
1973年、バイクで女性として初めて世界一周を成し遂げた仏人ジャーナリストの旅を絵本にした1冊。必要最低限のものだけを持って旅をした彼女が世界各国で出会った人々。「彼女がつかみとった世界の美しさ、人間らしさを感じてほしい」と小池さん。
女性一人がバイクで世界一周をする物語、夜中に家を出た家族が闇の中を歩いて行くお話、岬にたたずむ灯台の言葉。
「どの絵本も、言葉も絵もお互いを補い合って美しいんです。共通しているのは、本当に体験したことのリアリティ。ネットの情報で未知の国のこともわかったような気になったりする時代。だけど、本当の美しさ、人間らしさは自分でもがき、闘ってつかみとるものです。その価値、豊かさを感じてほしい」
\言葉3/
『ボクサー』ハサン・ムーサヴィー 作/愛甲恵子 訳/トップスタジオHRより

ボクサーは、
打って、
打って、
打った。
昼も、夜も、何年も。

『ボクサー』
ハサン・ムーサヴィー 作/愛甲恵子 訳/トップスタジオHR
「最初の言葉にがつんとやられました。詩的だし、かっこいい」と推してくれたのはイラン発の絵本。海も山も打ちまくったボクサーが最後にたどりつくのは……。「父性とは何かを考えさせられる。真実は空回りを繰り返したあげくに見つかるのかもしれない」
\言葉4/
『とうだい』斉藤 倫 文/小池アミイゴ 絵/福音館書店

とうだいに できることは ひかること

『とうだい』
斉藤 倫 文/小池アミイゴ 絵/福音館書店
ちいさな岬に立つ灯台が主人公。自由に飛び回る鳥たちをうらやましく思うこともあるけれど、その光が多くの人や船を照らし守ることに灯台は気づく。「子育て中の母親とか、お客を待つのが仕事のお店の人が、自分を灯台になぞらえて応援してくれるのが嬉しい」
PLOFILE
小池アミイゴ/こいけ・あみいご
イラストレーター・絵本作家 62歳
絵本作家としてのデビューは1992年、『いつもの街で』というクリスマスの物語だったそう。6月29日まで群馬県前橋市のフリッツ・アートセンターで個展を開催中。
Instagram:@amigosairplane
発売中の『クウネル』7月号では、印象的な「言葉」がたくさん
『クウネル』2025年7月号掲載 写真/久々江 満、取材・文/船山直子
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