辻仁成さんの話題の犬エッセイから試し読み!愛犬・三四郎の可愛さに振り回される辻さんの幸せな日常

作家・ミュージシャン・映画監督として多彩な才能を発揮し、フランスを拠点に活躍する辻仁成さん。エッセイや小説を通じて、人生や愛、孤独について深く問い続けてきた辻さんが、最新刊『犬と生きる』(マガジンハウス)を上梓しました。本書には、ミニチュアダックスフンドの「三四郎」が辻家の一員となってから約3年間の記録が、辻さんの優しいまなざしで綴られています。
愛犬・三四郎との暮らしを通じて見つめた「家族」のかたちや人々との交流、そして言葉を超えて通じ合う絆。やんちゃな三四郎に振り回されながらも、その無邪気さに癒やされ、成長を喜ぶ。本書に描かれた、そんな温かな日々のエピソードを抜粋し、3回にわたってお届けします。「辻仁成さん話題の犬エッセイ。犬好きさんはもちろん!「だれか」を愛し、日常を大切に生きる人皆が共感」に続き、連載第三回目です。
※本企画は、辻仁成さんの『犬と生きる』(マガジンハウス)からシリーズ3回でご紹介します。
子犬と暮らすということ。かわいいと思う毎日がぼくにくれるもの
1月某日、犬はずるい。いや、とにかくずるいなぁ、と思う今日この頃である。いっつもぼくにくっついてくるので、邪魔なんだけど、叱ることが出来ない。可愛いからである。料理をしていても、足元にいるし、もちろん、おこぼれを与かりたくて、そこにいるのだろうけれど、父ちゃんが窓を閉めていると、いつのまにか足元にいるので、思わず、踏んづけてしまいびっくりとか、トイレから出ると、ドアのところで待っているので 、「おおおお、かわいいのォ」となってしまうとか、ともかく、メロメロ父ちゃんなのであった。

愛犬の三四郎(以下、すべて辻仁成さん撮影)
今日はソファで、ごろごろしていたら、飛び乗ってきて、ぺたッと横に張りつき、動かなくなって、しかも、鼻先をぼくの身体の下にぐいぐい押し込んでくるし、携帯で音楽を聞いていると、お腹の上に飛び乗ってでんぐり返しはするし、いやはや、可愛いのである。なんでこんな生き物が創造されてしまったのであろう 。
三四郎は犬なんだけど、そのいちいちの所作がめっちゃ感情農かで驚かされるのである。
父ちゃんが彼を叱ると、首をかしげるのである。理解しようとしているけど、わからないから、どういう意味なのよ、と小首をかしげて、考え込む姿が、ともかく可愛いのである 。時々、前脚のどっちかの足だけを上げて、静止することもある。何か、ちょっと戸惑った時にそういうボーズ? をとるのだけど、一本の足だけ宙に浮かせて、顔は父ちゃんを見て、なんか知らないけどアピールしてくるので、やば可愛いのである。とにかく、必死で生きようとするその姿がめっちゃ可愛いのだ。

夜、風呂場の彼のベッドに連れて行こうとすると、ソファで寝たふりをして、「寝るよ」と言っても「きこえませーん」という感じで動かないし、朝は、「散歩行くぞ」といっても、風呂場の自分のベッドから顎を突き出し「それは誰に対して?」みたいな顔をするので、めっちゃ、可愛いのである。
最近は、冷凍しておいた鳥のささみを解凍するのがわかるみたいで、夕ごはんの時間が近づくと、冷蔵庫の下で、ふんふん、悶えているである。「ごはんにしようか」と言うと、もう、気持ちをおさえきれなくなって、電子レンジの前でぐるぐる回って「はやくしてよーまちきれないよー」と全身で訴えてくるので、めっちゃめっちゃ、可愛いのである。というわけで、電子レンジが好きになりすぎて、昼間とかも、電子レンジの前に自分の犬用絨毯を引きずってきて、その上で待っているのだから、たまらなく、可愛いのである。

こんな生き物、なんで、存在できちゃうのだろう、と思ってしまった。
人間がいなければ絶対に生きることが不可能な生き物じゃないか、と思うのだけど、本人たちはどう思っているのかしら…。
とにかく、目がくりくりしているし、耳がふさふさしているし、胴長短足で、やんなっちゃうくらい可愛いのだ。
「三四郎!」
でも、ぼくが叱ると、しゅんとなって、逃げ回るから、これまた、可愛いのである。幸せなんだろうな、と思うと、ぼくも幸せになる。
でも、君、可愛いだけでいいのかい? 反省しなさい!!!
※本稿は『犬と生きる』(マガジンハウス)より一部を抜粋・編集したものです。
愛犬・三四郎との愛情溢れる日々を綴った1冊、大好評発売中!

犬と生きる
パリ在住の芥川賞作家・辻仁成が、愛犬・三四郎との出会いや、ともに暮らすことの豊かさについて綴った、『パリの空の下で、息子とぼくの3000日』(マガジンハウス)のその後の物語。
著者が主宰するWebマガジン「Design Stories」で連載されたコラム「JINSEI STORIES」(2022年1月~2024年9月掲載分)を抜粋・再構成。さらに、装画を含む全てのイラストレーションを著者自身が手がけ、愛犬・三四郎のカラー写真も掲載。
『犬と生きる』(マガジンハウス)
1,980円
PROFILE

辻仁成/つじひとなり
作家。1989年『ピアニシモ』で第13回すばる文学賞を受賞。97年『海峡の光』で第116回芥川賞、99年『白仏』の仏語版「Le Bouddha blanc」でフランスの代表的な文学賞であるフェミナ賞の外国小説賞を日本人としてはじめて受賞。『十年後の恋』『真夜中の子供』『父 Mon Pere』他、著書多数。『父ちゃんの料理教室』『パリの"食べる"スープ 一皿で幸せになれる!』など、料理に関する著書にも人気が集まる。現在、パリとノルマンディを往き来する日々。
画像提供/マガジンハウス