「買い物は出会いですよね。物との出合いであり、その周りの人との出会いでもある。でもこれからはもう物だけの時代ではないと思うんですよ。それにまつわる思い出や作った人との出会いを大事にしていきたいですね」と、ウー・ウェンさんは言います。

今回挙げてくださった木のスツールとテーブルも、高知在住の若い木工作家、高橋成樹さんとの出会いがあって、ウーさんの家にやってきました。

「もともと高知と縁があって、柚子や蜂蜜など特産の食材を購入していたんですが、その関係の方から〝食べ物ばかりでなく、こういうものもありますよ〟と紹介されたのが彼の作品でした」

高橋さんは祖父が製材業、父が大工という環境で育ち、自分も山師として高知の林業会社で働いていました。山師とは森を育て、間伐し、木材を生産する林業をなりわいとしている人のこと。高橋さんはその仕事も続けつつ、 3年前に木工作家として活動を開始しました。

「間引きされた木を売ったり、廃棄したりするのではなく、それを使って何かを作りたいと思ったみたい。昨年の春、東京での展示会を見に行って。作品だけでなく、環境や未来に配慮した彼の姿勢に打たれ、まだ26歳という若さに応援していきたい気持ちになりました」

どんな形の木でも廃棄せずに、その形を生かし、作品に仕上げているので、木の割れやひびなどもそのまま。それがなんともいい味わいになっています。

「ほんとうに使い勝手がいいの。キッチンにある椎の木のスツールには書きかけの原稿を置いたり、配膳の前にちょっとお皿を載せたり。お客さまがいらしたときは、私が座る特等席になります」

桜の木で作られたテーブルには、来客時にワインクーラーを置いたり、いただいたお土産をディスプレイしたり。「万能選手」とウーさんが讃えるのもうなずける活躍ぶりです。

高橋さんの東京での展示会は年2回。 マンションの一室で開かれます。ウーさんは息長く応援するつもりで、一気にたくさん買わずに、展示会ごとにひとつずつ、揃えるようにしているとか。最初の出会いから徐々に親交も深まり、今では息子のように思い、彼が東京に来ると家に招いてごはんを食べさせたりしているそうです。

「近々、彼の普段の生活を見に、高知へ行く予定なんですよ。ほんとうは木を切っている山にも入りたいんだけど、〝ウ ーさんには無理だと思うよ〟と言われています」

年齢を重ねて、若い人を支援する立場になったウーさん。買い物の意味合いもだんだん変わってきている様子。

「若いときは新しいものにすごく惹かれたけれど、今は自然のものがいいなと思うんです。この年齢になると、健康であれば他には何もいらないと思えるぐらい、 健康が大事。健康のためにはもっと自然 を大切にし、積極的に生活に取り入れて いきたいと思うようになりました。人間 も自然の一部ですからね」

子育てで忙しいときは、お腹を空かせた子どもたちに1分1秒でも早く食べさせたいと、便利な食品を使っていたこと もあったというウーさん。でも、今はよ り自然に近い旬の食材を使い、丁寧に料 理を作るそのプロセス自体も楽しみたい と思っています。

「人生は生まれてから死ぬまで、毎日がプロセス。60歳を越えてこれからの私のプロセスを、少しスピードを落として、丁寧に味わいたい。そう考えると、年をとって何でも昔のように早くできなくなったことも悪くないですよね」