小泉今日子さんが約30年前に買ったミニケリー。「身に着けるものをグレードアップしていく入口になってくれた」
歌手・俳優の枠を超え、ファッションアイコンとしてクウネル世代のカルチャーをリードしてきた小泉今日子さん。
「物だけじゃなく、素敵な物に出会ったその時の気持ちを大事にしたい」という小泉さんに、買い物にまつわるお話を伺いました。
買い物が教えてくれた、自分を大切にする価値観。
「物に執着がなくて、買い物について話せることがあまりないんです」という小泉さん。印象的な買い物についてたずねてみると、初めて自分のために購入したブランドバッグ、〈エルメス〉のミニケリーを見せてくれました。25歳頃、知人の結婚式でハワイを訪れた時、一緒にワイキキを散策していた小暮徹さん・ひでこさん夫妻に背中を押されて購入してから30年以上、大切にしているそうです。
「ちょっと覗いてみようかなとショップに入ってみたものの、店頭に並んでいたのは、若い私からしたらびっくりする値段のものばかり。ミニケリーならなんとか私にも似合うかなと思ったのですが、その時お店にはリザードのものしかなくて。レザーと値段が全然違うんです。さらに躊躇していたら『そろそろお姉さんもそれぐらい持っていいよ』と小暮夫妻に背中をばんっと叩かれました。それでようやく、自分もこういう買い物をしてもいい年頃なのかも、と思えたんです」
このバッグに合う服は? 靴は? と、ミニケリーが、身に着けるものを少しずつグレードアップしていく入口になったといいます。それまでは高価なブランド品を持つことを分不相応に感じていたと、当時の心境を明かしてくれました。
「同世代の友人や慎ましく暮らす家族と比べて収入が多いことに、罪悪感やプレッシャーを感じていたところがありました。15歳から仕事をしてきて、大学に行ったりお勤めをしたりした経験がないので、価値観をどこに合わせたらいいのか分からなかったんだと思います」
姉たちにブランドバッグをプレゼントしたものの「この辺りでこういうものを持つと目立っちゃう」と、あまり使ってもらえなかったこともあったのだとか。「みんなと普通に会いたいし普通でいたいのに、どこか気を遣わせてしまう。どんなものが自分にふさわしいのか分からなくて、高価な買い物を自分に禁じていたところがあったかもしれません。小暮夫妻に文字通り背中を押されて初めて、『自分を大切にする買い物』をしてもいいんだと思えました。ミニケリーは、その記念のような存在。25歳の私の勇気は、ちょうどこのくらいの大きさでした」
印象深い贈り物について聞いてみると、親しかった映画監督・相米慎二さんとのエピソードを教えてくれました。
「お誕生日にご自身では選ばなそうな〈コム デ ギャルソン オム〉のシャツをプレゼントしたら、すごく似合っていたんです。ご本人も気に入って、取材なんかでも着てくれていたみたいで。それからわりと程なくしてお亡くなりになったんです。お葬式に伺ったのですが、そのシャツを着てくださっていました」
PROFILE
小泉今日子/こいずみ・きょうこ
1966年神奈川県生まれ。1982年に歌手デビューし、俳優としても数多くの映画やドラマに出演。最新出演作は11月22日公開の映画『海の沈黙』。数々の名作を手掛けてきた脚本家・倉本聰氏が長年にわたり構想をあたためてきた贋作事件をめぐる物語で、本木雅弘さん演じる天才画家の元恋人役を好演。『海の沈黙 公式メモリアルブック』(小社刊)¥1,980も好評発売中。
語る小泉今日子さん。動画も公開中!
『クウネル』2024年11月号掲載 写真/中村力也、スタイリング/藤谷のりこ、ヘア&メイク/磯嶋メグミ、取材・文/吾妻枝里子、編集/河田実紀
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