「たった1冊の本を売る」森岡書店・店主が大切にしている3冊。生き方のヒントを得たエッセイ

誰しも人生の傍に本の存在があるのではないでしょうか。

時に新しい扉を開き、背中を押し、心を癒してくれることも。森岡書店・店主の森岡督行さんに〝かけがえのない本〟を聞いてみました。

1歩を踏み出す背中を押してくれた。

本の目利きである森岡督行さんが選んだ3冊はいずれもエッセイ。
「たった1冊の本を売る」というこれまでにないコンセプトの書店を始めた発想や行動力も、本から吸収したことが影響しているよう。

『ボクの音楽武者修行』は、20代の頃に読み、独立した30代で改めて読み返して血肉化された作品。

20代前半の頃に読んだ 『ボクの音楽武者修行』 小澤征爾 著

音楽の生まれた地、そこに住む人をじかに知りたいと、24歳で単身ヨーロッパへ。世界的指揮者バーンスタインとの出会いも語った自伝的エッセイ。新潮文庫

指揮者の小澤征爾さんが20代のときに、スクーターでヨーロッパを巡った話なのですが、お金もなく、計画性もないひとり旅の中で、場当たり的な出会いがあり、物語が生まれていく。バーンスタインから学んだことに興奮している様子も行間から伝わってきて、何もないところからでも挑戦していくことの素晴らしさ、人とのかけがえのない出会いが人生を豊かにすると教えられました。自分もこんな当てのない旅をしてみたい、と思い続けています」

身近なものを見つめる視点に影響を受けた。

2冊目は『ヨーロッパ退屈日記』。暮らしの中にある、一つひとつのものに面白みを感じる視点を教えてくれた本です。

30代半ばの頃に読んだ『ヨーロッパ退屈日記』 伊丹十三 著

1961年、俳優としてヨーロッパに長期滞在していた頃のことを綴ったエッセイ。幅広い知識、独自の視点をユーモア溢れる文章で語るスタイルブック。新潮文庫

「伊丹十三さんの面白いところは、目の前にある身近なものに好奇心を示す目線。洋服、靴、鞄、料理、調理道具そうした身近にあるものを愛情を持って楽しむ姿勢が根底にあると思います。伊丹さんの視点に共鳴して、自分の暮らしやもの選びを変えていった人は多いのでは?実は私もそのひとりです」

仕事も人生も楽しむ姿勢にリスペクト。

3冊目に挙げたのは『銀座界隈ドキドキの日々』。1960年代の銀座を舞台に和田誠氏が出会った仕事仲間や当時のデザインを語るエッセイ。森岡さんがこの本を手に取ったのはつい数年前のこと。

40代後半の頃に読んだ『銀座界隈ドキドキの日々』 和田 誠 著

大学卒業後、銀座のデザイン会社に就職した著者。憧れのデザイン業界での胸高鳴る修業時代を懐かしいデザインとともに綴る60年代グラフィティ。文春文庫

「オペラシティで開催された和田さんの展覧会に行き、あまりの仕事量の多さとクオリティの高さに胸を打たれ、すぐにこの本を手に取りました。これを読んで思ったのは、“和田さんは仕事と人生が一緒になっている人”。仕事も人生も遊びと区別なく楽しんでいるから、寝る時間を削っても苦にならないし、あれだけの膨大な仕事の数々を難なくこなせたのだろうな、と。私も仕事を楽しむ人でありたい。そう思わせてくれた一冊でした」

PROFILE

森岡督行/もりおか・よしゆき

神保町の古書店を経て独立。「1冊の本を売る」をテーマにした書店兼ギャラリーを銀座でオープンし注目を集める。展覧会の企画協力やエッセイ連載、著作など活動は多岐にわたる。

『クウネル』2024年11月号掲載 写真/加藤新作、 編集・文/今井恵、矢沢美香

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