【私の読書時間】エッセイスト・柴門ふみさんが選ぶ「家族の悩ましさ愛おしさを考える」3冊とは?

著名人の方にクウネル世代におすすめの本を教えてもらう「私の読書時間」。今回は漫画家エッセイスト、柴門ふみさんにお話を聞きました。

愛しさも憎しみも。 矛盾に見える感情を抱える家族。

『東京ラブストーリー』など恋愛の機微を描いた数々の漫画やエッセイが人気を 呼び、「恋愛の教祖」と呼ばれた柴門ふみさん。

年を経て、現在は「家族」が著作のテーマになっているそうです。 「死ぬまでつきあうことになる家族との関係は奥が深い。年齢を重ねれば、家族 構成も変わり、そのたびに違うフェーズに移ります。それまでわからなかったことがわかるようになると、それを書きた い気持ちがうまれますね」

今回の3冊も「母(父)と子の、一筋縄ではいかない関係性」をテーマに選んでくれました。

『 夜ごとの揺り籠 、舟 、あるいは戦場』
森 瑤子
末娘の問題行動を機にセラピーに通う小説家の私。そのやり取りと母との過去、夫との旅先の現在が同時進行する。文庫版の解説は柴 門さんで「読む年代によって受け取り方が違う良書」と。講談社

『夜ごとの揺り籠、舟、あるいは戦場』は森瑤子さんの1983年の作品。「まだ毒親などという言葉もなく、母性 神話が信じられていた時代に、小説の形 であれ、〝子どもを愛せない〟と言い切ったことにびっくりしました」

都会的で華やかなイメージのあった森さんが、母親や娘との関係に悩み、セラピーに通ったらしいことにも驚いたそう。 すでに母親だった柴門さんは「初めて、 母性は絶対的なものではないと気づかされた」と、当時の衝撃を話します。

『明るい方へ父・太宰治と母・太田静子』 太田治子
父・太宰と愛人だった母・静子さんのなれ初めから妊娠、別れまでを描く。「キザ」「自己中心的」などと太宰の男としてのずるさを容 赦なく指摘。母親の文学的な野心にもふれている。朝日新聞出版

2冊目の『明るい方へ』は、太宰治と その出世作『斜陽』のモデルとなった太田静子の間に生まれた娘・治子さんが、 父を描いた作品です。

「もともと太宰治が大好きで、特に文体 に惹かれていました。『斜陽』も男性の作家がよくここまで女性の気持ちを書けるなと感心していたのですが、これを読んで、『斜陽』は静子さんの日記を引き写した箇所が多いと知り、驚くと同時に 謎が解明された気持ちでした」

親子の距離感にも注目。「作者はずっと〝太宰〟と書いていて、〝父〟とは一度も書いていない。突き放 して描写する冷静な筆さばきに作家を感 じました。でも、書くことによって父親に近づきたかったし、相反する気持ちを持っていたんでしょうね」

『母という呪縛娘という牢獄』
齊藤 彩
起訴後も罪を認めなかった娘は、 裁判官の言葉に一転、殺害を認め る。「自分のしんどさをわかってくれる人がいると思った途端に目 が覚めて。父親も逃げずに娘を支えているのが救いです」。講談社

最後の『母という呪縛 娘という牢獄』は医学部受験で9浪した娘が母を刺殺という実際に起きた事件のノンフィクション。娘の日記や、著者と娘が交わした手紙を基に書かれています。

「この母親なら事件が起きてもしょうがないなと思えるひどい仕打ちの連続なんですが、一緒にフードコートでラーメンを食べたりと、楽しい時間もあったようです。

3冊ともに言えることですが、家族の間には、他人からは矛盾に見える感情が入り交じっている。客観的にみればひどい家庭であっても、それぞれに愛情を感じる美しい一瞬もあり、それが家族なのかなと思わされました」

一番身近で、時には一番悩ましい存在かもしれない家族。改めてその関係を考えてみたくなる3冊です。

PROFILE

柴門ふみ/さいもん·ふみ

漫画家 エッセイスト
1957年徳島県生まれ。漫画家として多数のヒット作を放ち、エッセイストとしても活躍。八ヶ岳山麓の保 養地に集まる、ワケあり家族を描いた『薔薇村へようこそ』の3~4巻 が、4月下旬に同時発売、完結した。

『クウネル』2024年7月号掲載 写真/池野詩織、取材・文/丸山貴未子、ヘア&メイク レイナ

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『クウネル』NO.127掲載

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