役所広司さん「映画は僕に勇気を与えてくれる」。名匠ヴィム・ヴェンダースとタッグを組んだ新作映画への想いとは
俳優、監督、脚本家…… 映画の世界で活躍する方々が、心をときめかせた映画についてうかがいます。今回は日本を代表する俳優、役所広司さんに映画への想いと新作映画についてお話をお聞きしました。
PROFILE
役所広司/やくしょこうじ
1956年長崎県生まれ。’96年『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』で国内の映画賞で主演男優賞を独占。近年では2019年のアジア全域版アカデミー賞、第13回アジア・フィルム・アワードで、特別賞Excellence in Asian Cinema Awardと『孤狼の血』での主演男優賞をダブル受賞。’20年シカゴ国際映画祭では観客賞のほか、’01年の『赤い橋の下のぬるい水』主演男優賞以来、19年ぶりに『すばらしき世界』での最優秀演技賞を受賞するなど、国際的にも高い評価を受ける。そして’23年『PERFECT DAYS』では第76回カンヌ国際映画祭において最優秀男優賞を受賞、日本を代表する俳優。
「映画は僕に勇気を与えてくれる」
ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダース監督、最新作『PERFECT DAYS』で第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞に輝いた役所広司さん。演じるのは、東京・渋谷に点在する公衆トイレの清掃員として働く平山。毎日同じ時間に目覚め、同じように身仕舞いをして仕事場に向かい、同じように働く……。物語は、そんな平山の心の小さな揺らぎを丁寧に紡いでいきます。
「平山という人は、毎日、瞬間、瞬間を大切にして、自分にできることをやって、好きなこともやって、1日の終わりには好きな本を読みながら、満ち足りた気持ちで眠りにつく。質素ではあるけれど、あれだけ毎日毎日を満足しながら眠りにつける人って、羨ましいなと思いますよ」
生きていく上で大切なもの以外をすべて削ぎ落としたような彼の生活が、とても清潔で美しく感じます。
「そうですね。彼は過ぎ去った一瞬は、もう帰ってこない、だからこそ二度と自分に訪れることのないその瞬間を大切に生きる〝習慣〟ができているような気がします。同じことを繰り返す毎日ですが、彼にとっては単調な日々ではないのです。そのひとつの大きな現れが〝木漏れ日〟。彼は仕事の合間に眺める木漏れ日に支えられ、励まされていると感じている。監督も、平山と木漏れ日の関係を大切にしていて、『見る角度によって全く違って見える木漏れ日は、自分だけへのプレゼントなんだよ』とおっしゃっていましたね」
そうはいっても、その細やかな心情を表現するのは至難の業だったのでは。
「もう、ひたすら木漏れ日を見てればいいんですよ。いいなぁ、きれいだなって。これは世界中で、自分ひとりにしか見えない風景だと思って見てればいい。それってとても贅沢なことだと思えるから」
尊敬する監督との仕事は本当に嬉しかった
今作で初めてヴェンダース監督と組んだ役所さん。
「尊敬する監督のひとりでしたから、本当に嬉しかったですね。いちばん感じたのは、彼は映画というものを素材にして、いろいろな実験をしているということ。これまで物語のある作品も、ドキュメンタリーも、あらゆるジャンルを撮ってきた。そして今作はドキュメンタリーとフィクションを融合させたような味わいのある作品でしょ。常に映画で新しいものを表現しようとしていて、映画づくりに対してとにかく自由。自分の直感や発想を信じ、自分に見えているものをどう表現すればいいかを常に考えている。本当の意味での映画作家。次は一体何を見せてくれるんだろうという興味をかきたててくれる監督でもありますね」
生きる習慣を見つめる『PERFECT DAYS』
名匠ヴィム・ヴェンダースが、東京・渋谷の公衆トイレの清掃員平山(役所広司)の日々を描いた作品。淡々と繰り返す毎日に、思いがけない出来事が起き、平山の過去を静かに揺らす。第76回カンヌ国際映画祭にて最優秀男優賞を受賞。12月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。
『クウネル』1月号掲載 写真/新津保 建秀、スタイリング/伊賀大介、ヘア&メイク/勇見勝彦、取材・文/金子裕子、編集/河田実紀
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『クウネル』No.124掲載
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