夢中になれるもののある人生に憧れる。珈琲1杯に人生をかける“職人たちの著書”3冊
食周りの著作で注目される井川直子さん。子供の頃の休日は母親が豆から挽いたコーヒーの香りで目が覚めたそう。 そんな珈琲好きの薦める「珈琲職人」の本です。
PROFILE
井川直子/いがわなおこ
文筆業。1967年生まれ。近刊に『ピッツァ職人』(ミシマ社)。高校へ進学せず、本場ナポリへ修行に渡った職人を12年間追いかけた力作。
珈琲1杯に人生をかける職人たち
日々の取材を通して出会う、食の職人の姿にどうしようもなく惹かれるという井川さん。
「夢中になれるもののある人生に憧れるんです。特に珈琲は日常の何気ない飲み物。その儚いものに一生をかけている人たちの本を選んでみました」
『珈琲の建設』は京都に焙煎所を構えるオオヤミノルさんの一人語りの本。
「珈琲を通して社会の情勢を分析したり、人とは、味とはと哲学的に考えたり。素直ではないように見えて、言葉に嘘がなく、いったん全てを受け入れる寛容な精神が底に流れています」
『珈琲屋』は珈琲界の東西のレジェンド二人の対談集です。
「相手の話を聞いているのか、いないのか。会話がかみ合っているような、いないような(笑)。でも、大御所ながら、二人とも好きな珈琲のことを夢中でしゃべっている感じがツボでした。じつは先の見えない20代の頃、ランチ代を削ってでも大坊珈琲店に通っていた。当時を思い出しました」
『LIFE IS ESPRESSO』はニューヨークでエスプレッソに魅せられ、順調だった別の仕事をなげうって帰国。日本で専門店を開いた、田中勝幸さんの物語です。
「リスクがあっても、日本では未開拓の分野であることに燃えて飛び込んでしまう。田中さんも人生に全身全霊で情熱を傾けられるものを求めた一人です。今の私はどうだろう?と自問しながらも、そういう方たちの話を聞くことでワクワクしています」
新刊チェック 70代。現役スタイリストの キレのいい服と生き方。
ドラマスタイリストの第一人者のフォトエッセイ。明るい色の服が元気をくれる、カッコイイをあきらめないなど大人のおしゃれのヒントがいっぱい。これまでの人生を振り返るカラッとした語り口も魅力です。読後は、今日は何を着ようかとはずんだ気持ちに。
新刊チェック 震災からコロナ禍まで。 心の軌跡をたどる80篇。
おしゃれの話、社会の中での女性のありよう、人間関係や自身の著作のこと……。12年間「Hanako」読者に語りかけるように綴られたエッセイは、ユーモアにあふれ、時に鋭く、どこまでもあたたか。著者の深い思いがにじみ、小説とはまた違った味わいです。
『クウネル』11月合掲載 取材・文/丸山貴未子
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『クウネル』No.123掲載
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