宮本亜門さん/どう生きるべきか悩んだとき、指針を与えてくれた運命の本とは?

ふとしたきっかけで読んだ本が、その後の生き方に大きな影響を与えていたり、転機になったり......。宮本亜門さんが長い人生のなかで指針にしてきた本、運命の出合いをした本について伺いました。
PROFILE
宮本亜門
ミュージカル、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎など、ジャンルを超える演出家として、国内外で幅広く活躍。著書『上を向いて生きる』も注目。
心の基盤をつくり、生きる指針を与えてくれた
出家として世界で活躍し、天真爛漫な印象が強い宮本亞門さん。しかし、学生時代は引きこもりや自殺未遂をするほどもがいていました。
「生きるとは何か、どう生きるべきかに悩み苦しみ、10代は自分の存在すら認められず......。そんなときの拠り所が本でした。必死に答えを探し求め出会ったのが『シッダールタ』です」
心が落ち着き、今でも読み返すそう。「〝世界は瞬間瞬間に完全なのだ〟という言葉にハッとさせられました。どんな状況でも一瞬を自分がちゃんと受け入れ、精一杯生きる。すると不思議と結果も変わってくる。そう少しずつ感じ始めたんです」

『シッダールタ』ヘルマン・ヘッセ 訳/高橋健二
シッダールタ(出家以前の釈迦とは別人)が苦行で悟りを求めながら、最後は川の流れから学びを得、一切をあるがままに愛する悟りの境地に達することを綴った名作。「この本が好きで、『月食』と題して舞台化もしました。自然崇拝などヘッセの思想にも感化され、沖縄移住のきっかけにもなった本です」(新潮文庫)
『夜と霧 』ヴィクトール・E・フランクル訳/池田香代子極限状態でも希望を失わなかった人々の姿に打たれたフランクルが、冷静な視点で収容所での出来事を記録。過酷な環境の中で何に絶望し、何に希望を見い出したかを記した現代にも生きる一冊。「極限でも、どこを向いたらよいか、先を考える力がすごいと思いました」(みすず書房)
さらに大きな影響を受けたのが、ユダヤ人の精神科医フランクルが収容所での生活を綴った名著『夜と霧』。命も危ぶまれるほどの交通事故、大病、震災、9・11などにも遭遇した宮本さんだからこその運命の一冊です。
「生きていれば絶望に遭遇することもある。しかし、フランクルが説いたように極限の中でも人間は、生きる目的を持つ力、運命に立ち向かう力、愛を喜ぶ力が持てる。だから病のときも嘆きより祈りや感謝を大事にしたいと思った。震災のときも、人々が絶望から転じられる手伝いをしたいと思ったんです。
また『金閣寺』も、生きる軸は最終的に自分で探すしかないということを教えてくれた大切な本ですね」。これらから得たことはまだまだあると続けます。
「演劇は僕にとって1つの道具。自分が幸せで周りも喜んでくれるのなら、演劇を違う道具に変えてもいい。そんな思いも醸成してくれました。この瞬間を大切に、喜怒哀楽を感じ幸せを享受する。そういう今の僕の心の基盤をつくり、生きる指針になった3冊です」
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『ku:nel』2023年1月号掲載
写真/玉井俊行、取材・文/遠藤理香、編集/河田実紀