〈クウネル・サロン〉プレミアムメンバーの那須明美さんはケア・マネージャー歴20年と、介護の現場の大ベテラン。介護世代でもある「マチュア世代」のために、月に一回のペースで介護のお話をしていただきます。
夜間のトイレ介助に、排泄の失敗による大量の洗濯やトイレ掃除……排泄にまつわるさまざまなケアは介護をするものにとって大きなストレスになりがち。那須さんも家族の介護でその大変さを実感したと話します。
トイレケアは介護の中でもストレス大の難題
「父は認知症ではありましたが、 トイレは通常通りできていたので、普通の下着をつけていました。ところが認知症が進むにつれ、トイレの場所がわからなくなり、間に合わなくて失禁してしまったり、トイレ以外の場所で用を足してしまうこともあり、目が離せなくなりました」
「尿ならともかく、便となるとかなり負担感が増してしまって。施設ですと排泄障害の進行にあわせたケアができますが、在宅の場合は対応しきれない場合が多々あります。これまで担当してきたお宅でも、トイレの失敗が頻繁になり、施設入りを検討される方が多いようです」
今は下着や紙オムツの種類も多種多様
トイレ問題で、乗り越えるのにひと苦労するのが布の下着からリハビリパンツと呼ばれる使い捨ての紙パンツにいかにスライドしていくか。プライドが許さず拒否反応を示す人も少なくありません。
「羞恥心を伴うデリケートな問題なので、介助する側は言葉かけやすすめ方にも配慮が必要です。まずは失敗した時にはいてもらうようにしたり、デイサービスなどを利用している場合はプロの手を借りて上手に慣らしてもらったり。冬場なら『こっちの方がフワフワしてあったかいから、今日1日はお腹が冷えないようにこれにしてみましょうか』などとおすすめしてはいてもらうことも」
「尿取りパッドの使用から入る手もありますが、パッドをトイレに流して詰まらせてしまう人もいるので注意が必要です。今はリハビリパンツも通気性や尿の吸収量など多種多様。失敗を恐れて外出しなくなったり、生活意欲の低下につながってしまうのは残念なことだし、普通の下着に近い薄手のものから始めるなどして、生活の質を取り戻せるといいですね」
便秘や下痢は医師に相談してコントロール
「慢性の便秘や下痢も介護者にとっては大きなストレスです。うちの父は便秘がひどくて何日も出ない日が続いた挙句、下痢で失敗を繰り返すようになり、医師から便をやわらかくする薬を処方してもらいました」
「様子をみながら少しずつ服用するうち、排便のペースをつかめるようになり、『そろそろかなー』なんてリハビリパンツをはいてもらったりして、だいぶ助かりました。逆に下痢が続く人も医師と相談して整腸剤を処方してもらえます。整腸剤は種類が多いので、いろいろ試して本人に合うものを見つけ、便のコントロールができるようになると介助もずっと楽になります」
夜間頻尿で介護の負担が大きければ、夜間対応型の訪問介護も
「夜中にトイレに行く回数が増えたという訴えもたびたび聞かれます。高齢になると膀胱に十分な尿が溜められなかったり、利尿剤の内服や前立腺の障害などさまざまな要因が考えられるので、睡眠が妨げられるような場合は医師に相談することをおすすめします」
「なかには看護師にアドバイスされて午後に30~40分ほど横になることを実践したら、日中の排泄回数が増えて、逆に夜間の回数が減ったという方もいました。体を横にすることで、足の方に下がっていた水分を戻すようなイメージです」
「夫がアルツハイマー型認知症で夜間の尿量が多く、妻が夜中のトイレ誘導やオムツ交換に疲弊していた事例では、夜間対応型の訪問介護を調整したこともあります。キーボックスで鍵のやり取りをして、毎晩深夜にヘルパーが訪問してオムツ交換の支援をしてくれるサービスです」
「夜中にヘルパーが入ってくることに拒否感をもつ方も少なくはありませんが、在宅で暮らすことを望んでいたこのケースでは、『介護をする自分が倒れてしまっては、夫と家で一緒に過ごせなくなる』と決断されました。毎日毎晩のことですから、いかに負担を軽減させるかは重要なことですね」