築90年以上経つ民家での暮らしには、そこでしか感じられない時間の流れと風情がありました。今までと現在、そして未来を紡ぐ心地いい住まい方とは?前編私なりの色付けで、 受け継ぎ味わいを楽しむ。に引き続き、作家・甘糟りり子さんの鎌倉での生活をお届けいたします。
ダイニングルームと台所の間には引き戸があります
居間に置かれた大きな一枚板のテーブルは東京大空襲を逃れ、縁あって甘糟家に来ました。また、お母様が好きな著名なガラス作家舩木倭帆さんの花瓶はダイニングルームの壁に、 グラスは日常使いをしています。
「どんなものでも使ってこそ。新品が美しさのピークでは残念。時間が経ち、 傷やシミができればそれらをアクセサリーとすればいい。そんなふうに思えるようになったのも、この家に暮らし、 歴史あるものの魅力をわかる年代になったからでしょう」
まるで家と会話をするかのように暮らす甘糟さんは、古い家ならではの楽 しみ方も見つけました。
「ヴィンテージ雑貨は時を刻んでいるからか、どこの国のものでも、うちになじむ。そういうものを取り入れる工夫をしています。こういうアップデ ートが私には大切。職人さんの技術で建てられた家は、手と時間をかけるほどに心地いい空間になっていきます。 両親から受け継いだ家に、これからどんな味付けをしていこう。そう考えるだけでワクワクしますね」
甘糟りり子/あまかすりりこ
作家。大人の女性の新しい生き方を問う小説『中年前夜』(小学館)、鎌倉での暮らしと家族について綴った『鎌倉の家』(河出書房新社)、思い出とともにある食についての 『鎌倉、だからおいしい』 (集英社)など著書多数。
『ku:nel』2021年7月号掲載
写真/加藤新作、取材・文/河田実紀 Hata-Raku