焦りを感じて決心した約40年ぶりの教習所、新しい非常勤の仕事、習い始めた中国語。「色々な制約から解き放たれて、好きなことを始めよう」。これから後半に向かって生きていく方々に向けた、香山さんからのメッセージをお送りします。
50代半ばから新しいことをいろいろと。
自分の違った一面と出合えました。
来年に還暦を迎える香山リカさん、50代の半ばに同じ歳の友人の作家から、こんなことを言われました。「僕らの頭が今と同じように動くのはあと10年くらいかもしれないよ。その間にやりたいことや、まとめたい仕事はまとめておいたほうがいいんじゃないか」。年齢をあまり意識することもなく、精神科医として十分に働いてきたけれど、このままでいいのだろうか、この先10年で何ができるのだろうか。香山さんはとてもあせりを感じたと言います。半世紀以上を生きてきた今までの自分を振り返り、これから後半に向かっていく年代。香山さんの感じた焦燥を、我が事と感じる人も多いのではないでしょうか。
このことをきっかけに、香山さんは一大決心、「これまでにないくらい新しいこと」を次々と始めました。20歳頃に取ったはいいけれど、教習所の思い出があまりに悲惨で、更新もせずに失った運転免許。まずは、それを取り直すこと。当時と違って今どきは教員も親切、「この歳で免許なんて、と卑屈になっていたのですが、意外にスムーズに取ることができたんです」。
中国の医療を学ぶ旅に挑戦したい。
精神科以外のことも再び勉強したくなり、新たに総合診療科の非常勤医師の仕事もスタート。運動が苦手で足を踏み入れたこともなかったジムに通うようになり、増えてきた中国語圏の患者さんに対応できるように中国語も習い始めました。「新しいことをやって、あれ、思ったよりできるじゃない、私、と気づいたんですよ。苦手だから無理と自己規定していたのかもしれないって」。若い研修医にまじりながら新たな勉強をするなんて、と思っていたけれど、みなフレンドリーでわからないことを教えてくれる。中国語を勉強し始めて、いずれ中国の医療を学ぶ旅も夢ではなくなりました。
「特に女性は妻だから、母だからと、いろいろな制約を受けてきたと思います。でも人生は長くなって、誰にでも後半の2回戦があるんです。やってみて無理だと思ったらやめればいいだけ。もっとわがままに、これを私はやりたいの、と言っていいんだと思います」
香山リカ/かやまりか
1 9 6 0年北海道生まれ。精神科医、立教大学現代心理学部教授。近著に『女性の「定年後」』(大和書房)。幻冬舎ウェブにて、「おとなの手習い」をスタート
『ku:nel』2019年11月号掲載
写真 三東サイ /取材・文 船山直子