おしゃれミューズ 小林麻美さんの人気連載。真冬のこの時期は、これまでに撮りためていた雪景色の都会の写真を見せてくださいました。いつもの街を非日常に変える都心の雪に、小林さんはどんなことを思うのでしょう。
長い長い夢を見ていた
目覚めてからも 夢なのか現(うつつ)なのか
はざまをさまよう
窓の外は一面の雪
貴方の飲みかけのコーヒーはテーブルに
紺色のガウンも椅子の背にかかっている
だけど……
貴方がいない
それが何時(いつ)なのか 思い出せないけど
貴方がドアを閉める後ろ姿を覚えている
ガランとした部屋に風が吹き抜けてゆく
いつからだったか こんな日がくると
気がついていた
走り去ってゆく車の
雪できしむタイヤの音……
夢を見ている……
そう これは夢なんだ
夢なんだ
しんしんと降る雪
時々通る車のチェーンで走る
カタカタという不思議な音……
何もかもまるで違う次元に迷い込んだみたいに感じる
六本木の街が 異次元の街に
タイムスリップしたように別の街に変わってゆく!
息子が産まれた日
見上げた漆黒の空から
ひとひら ふたひら
雪が舞い降りて
あ 何かが始まると思った
あの日を忘れない
【後編/冬に生まれたからか、私は雪が好き。】に続きます。
『ku:nel』2019年 3月号掲載
写真・文 小林麻美/編集 黒澤弥生