沢野ひとしさん・苦しくない、私の片づけ作戦3/押し入れのプラスチックの収納ケースは敵?

住まいを整える イラストエッセイ 沢野ひとし

片づけと人の人生を見つめたエッセイが人気の沢野さん。すっきり整ったアトリエから、片づけが苦手な人たちに知恵をご伝授。

沢野ひとしさん・苦しくない、私の片づけ作戦2/「一汁一菜」の献立を主として、使わなそうな調味料や道具を毅然と処分しようからの続きです。

「収納ケースとパリのミニマリスム」

押し入れに透明なプラスチックの収納ケースがあるが、あれは「敵」だと思っている。季節の服を納めるためにと、我が家では何段にもケースを積み上げているが、そのまま海の底に沈んだままの藻屑と似ている。悍ましい妻の納戸には服が、通勤ラッシュのごとく押しくらマンジュウ状態である。

我が妻が反面教師の見本である。「少しは捨てたら」というもんなら、すぐさま険悪な空気があたりに漂い、なぜか私の触れられたくない過去の行いをジクジク責めてくる。さらに収納ケースは「孫が来た時の下着や服を入れている」だから絶対に必要だと、毅然とした演説が長々と続く。

住まいを整える イラストエッセイ 沢野ひとし

それぞれのテリトリーを片づけて守ったら、家も家族もすっきり。

思わず「パリでは」と言いそうになった。妻はフランス人やパリジェンヌに拒否反応を示す。「どうせ素敵な暮らしの紹介でしょう」と冷淡である。

私は50代の終わりの頃にパリに凝っていた。たびたび訪れ「歴史・文化の中心はやはりパリだ」と感激していた。4区の長期用のホテルや16区のアパルトマンに合計3ヶ月ほど住んでいたこともある。自作の絵本がパリの出版社で翻訳された時期で、担当の編集者とことあるごとにセーヌ川沿いのバーで飲んだくれていた。

ある日彼の部屋を訪ねると、その「ミニマリスト」ぶりに驚いた。奥さんとネコと暮らしていたのだが、とにかく信じられないくらいものが少ないのだ。

服は「黒」で2人とも統一して、家具もアンティークな木の机にイスと極めて少ない。バスルームもトイレとシャワーに洗面台と簡素な造りだ。キッチンの横に小さな横型の洗濯機があるが、シーツはクリーニングに出し、洗濯はシャツに下着類だけと決めている。タオル類は2人で4枚のみ、かのバスタオルはない。

住まいを整える イラストエッセイ 沢野ひとし

「友達が来る時に片づけるから」。いつも片づいている方が絶対いいと思っているのに。

仕事柄、本は多く壁の大きな本箱に収められているが、床には一冊の本もない。通勤に便利なパリ市内で住むとなると家賃も高額なので、無駄なものは置けないという。

私は思わず、自分の家にはあまりに余分なものが氾濫していると実感した。タオル一つとってもバスタオルが何枚も重なり、洗面所の横の棚はまるでタオル売り場になっている。

住まいを整える イラストエッセイ 沢野ひとし

定期的に整理も処分もする沢野さんも、本が増える悩みがなくなることはなさそう。

PROFILE

沢野ひとし

沢野ひとし/さわの・ひとし

イラストレーター・エッセイスト・絵本作家

1944年生まれ。『本の雑誌』創刊の1976年から表紙や本文イラストを担当するほか本、雑誌の挿画、山岳エッセイ等々広いジャンルで活躍を続ける。整理整頓の行き届いたアトリエを訪問した編集者の依頼で、片づけの悲喜こもごもと人生、人間を考察し書いた『ジジイの片づけ』が大きく反響を呼び版を重ねている。『ジジイの台所』『ジジイの文房具』とシリーズで出版が続く。

沢野さん著書『ジジイの片づけ』

ジジイの片づけ』(集英社クリエイティブ)

『クウネル』2025年5月号掲載 文・イラスト/沢野ひとし、編集/原 千香子、プロフィール写真/渡辺達生

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