安藤優子さん「食の記憶の一つひとつが今の私を形作っています」。食の奥深さ、豊かさを味わう“安藤さんおすすめ3冊”
PROFILE
安藤優子/あんどうゆうこ
ジャーナリスト。1958年生まれ。11月28日に『アンドーの今もずっと好きなもの。』(宝島社)が発売。オール私服、セルフスタイリングのファッションや、日々作っているお料理のレシピを紹介。愛犬リンちゃんとの毎日やオフの過ごし方も綴られています。
味わい深い食のエッセイ3冊
抜群のファッションセンスがいつもかっこいい安藤優子さん。お料理上手でも知られています。インスタグラムの動画や近刊の『アンドーの今もずっと好きなもの。』では、簡単にできておいしいレシピを多数紹介。選書も、味わい深い食のエッセイ3冊を挙げてくれました。
『皿の中に、イタリア』は何度も読み返している1冊。イタリア歴40余年のジャーナリスト内田洋子さんが、「食べることは生きること」をテーマに、出会った人と食を鮮やかに描き出します。
「登場するのは、言うならば暮らしの中のイタリア料理。カプレーゼにしても、リストランテの前菜ではなく、ナポリの古いアパートで、塊のままのモッツァレラチーズとトマトに、窓辺の植木鉢からバジルをちぎって出てきます。でもその飾り気のない一皿がとびきりおいしそうで。人物描写が秀逸だし、文章の中にさりげなく、イタリア各地の地方の風景や今の社会事情、住宅の様子が盛りこまれ、読むだけでその土地の空気が感じられます。食の背後にそれぞれの物語があり、それを味わえるのが、レシピ本とは違うエッセイの醍醐味ですね」
2冊目の『おとこ料理讀本』にも、イラストレーター矢吹申彦さんの物語が浮かび上がります。それまで料理は奥さん任せだった矢吹さん。伊丹十三さんとめぐり会うことで食に目覚め、毎日の食事を作るように。そのメニューを、絵とエッセイで紹介しています。
「日々おいしい食とお酒を楽しむために手間暇を惜しまない。これほど贅沢な暮らしはないと思います。筍の項で、掘りたての刺身にはそれほど感心しないのに筍の皮で梅干しをくるんだ子供の頃のおやつを懐かしく思い出したり。そこに矢吹さんの小さな物語がありますよね」
安藤さんも幼少の頃、同じものを母親から与えられていたそう。甘いものがあふれている今とは時代が違い、そのおやつがとてもうれしかったとか。
「大人になってからも食に対する好奇心が旺盛でいろいろなものを食べてきました。戦場取材の合間に屋台でつまんだ揚げた川海老や、北朝鮮で監視を受けながら食べた味のないクレープのように、かなり強烈なものも。そうした食の記憶の一つひとつが今の私を形作っています」
最後の『ひとり飲む、京都』は、デザイナーで居酒屋の達人、太田和彦さんが夏と冬の京都にそれぞれ1週間滞在。朝はコーヒー、昼はうどんや定食、夜は居酒屋と、大いに飲みかつ食べた記録です。
「これはもう私の京都探訪のバイブル。何軒かは実際に足を運びました。ヨコワという、まだ脂ののらない若いマグロのことを知ったのもこの本でした。何日間も滞在したからこそ、発見できる京都の魅力がつまっています」
読んでいるだけでお腹がすいてくるような。そんな魅力的な3冊が並びました。
新作ガイド
人と自然の関わりを やわらかな言葉で考える。
四季折々の山小屋暮らしで、鳥や木々と丁寧に向き合い、人と自然について深く考えをめぐらせる。その文章は、清涼でありながら鋭さを含み、読む者にしみ渡って自然との関わり方を考えさせます。
個性豊かな人々との 偶然の出会いに彩られた人生。
本誌の好評連載が1冊に。フィレンツェのカメオ店の老夫婦、アメリカでの息子の初めての友人……。世界各地の人間味あふれる人々との偶然の出会いが、人生を豊かに彩ります。カラー装画も美しい。
『クウネル』1月号掲載 写真/目黒智子、ヘア&メイク/水落万里子、取材・文/丸山貴未子
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『クウネル』No.124掲載
あの人が、薦めてくれた映画
- 発売日 : 2023年11月20日
- 価格 : 980円 (税込)