日本の“おうちコーヒー文化”を牽引した〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉の進化の秘密とは?【ku:nel DESIGN LAB Vol.3】

身近な日用品のアプローチデザインを語らう〈クウネル・デザインラボ〉連載第3回目。ラボの所長を務めるクリエイティブディレクターの藤原奈津子さんが今回尋ねるのは、ネスレ日本。ネスレが手がける『ネスカフェ』のコーヒーは、今や世界で毎秒6,000杯飲まれていると言われています。そんな『ネスカフェ』を代表する〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉にフォーカスし、製品デザインの秘密から「なぜロングセラーになれたのか?」を紐解き、これからのブランド観についてお話を伺います。

〈ku:nel DESIGN LAB〉とは?

CONCEPT

「日々と向き合い、自分なりに求めるモノを、心踊りながら選び使うことで、そのセンスをモノにできる」。身近な日用品の機能美の中にある、愛用を生むアプローチデザインを知り、語り合う『サロン・ド・テ』のような知的交流の場を目指します。ラボの所長は、栄養士兼クリエイティブディレクターとして活動する藤原奈津子さん。毎回さまざまなゲストを迎えて、デザイン視点でセッションします。

時間を超える力。誰もが記憶にある〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉

藤原さん:今日はよろしくお願いします!〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉は私にとって、本当に思い出深いものです。さっそくなんですが、私の記憶をお話ししてもいいですか?(笑)

中西さん:はい!ぜひ聞きたいです。

藤原さん:私は秋田県出身なのですが、近所に喫茶店がなくて。 母が縁側で読書しながらコーヒーを飲んでいた記憶があります。母が金色の角蓋を開けると、その時間が始まりました。いつも忙しそうな母がのんびりとしている姿に、 子供ながら「そっとしておく」という思いやりを覚えた記憶があります。私自身の思い出は、大学受験のとき。深夜に勉強していると、母がぬるくて甘〜いラテを部屋まで持ってきてくれました。

中西さん:ぬるい…ですか?

藤原さん:はい。きっと母は、ぐびぐび飲めるようなやさしい温度に調整してくれてたんだなって、大人になって気づきました!

中西さん:まさに母の愛ですね!

藤原さん:当時から〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉で作ったカフェオレに夢中でした。アイスもホットもおいしいんですよね。大人になればブラック派になると思いきや、 今でも甘め派です(笑)。

中西さん:僕はブラックで香りや風味をじっくり味わうのも、ミルクと砂糖をたっぷり入れて甘めに楽しむのも、どちらも好みですね。砂糖やミルクの種類も多様ですし、濃いめに入れることもできます。自由に楽しんでいただけることが何よりの魅力かなと思います。

藤原さん:中西さんはどんな思い出がありますか?

ネスレ日本株式会社で『ネスカフェ』のブランドマーケティングを担当する中西さん。

栄養士兼クリエイティブディレクターの藤原奈津子さん。

中西さん:おじいちゃんが大好きで。年頃になると僕も真似して飲むようになりました。その空き瓶を活用して、おばあちゃんは梅干しを作ったり。〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉の瓶が並んで置いてある記憶があります。

藤原さん:わあ!私も、じっちゃんの話があります(笑)。

中西さん:いいですね〜。ぜひ聞かせてください!

藤原さん:実家が米農家なんです。秋田では、農作業の合間におやつを食べる「お茶っこタイム」という農家の文化があります。お茶っこタイムはだいたい、緑茶と漬物が定番なんですけど、じっちゃんがあるときから急にコーヒーを飲むようになって!70歳は超えていたと思います。母が好きだったので、もともと家に〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉はあったんですけど、いつの間にかじっちゃん専用のコーヒーゾーンができていました。空瓶を再利用して、角砂糖を入れたり。

中西さん:角砂糖とは、なんだか洒落ていますね!

藤原さん:角砂糖を2個入れるのがルールだったみたいです。他にも、コーヒーカップやスプーンもセットしてあって、かなりこだわっていました。コーヒーの匂いがふわっと漂うと、「あ、お茶っこ始まる」という合図。そんな感じで、我が家は三世代で〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉ユーザーです。きっと、クウネル読者もそういう方が多いと思います。

中西さん:おじいちゃんとお母さんが違うスタイルや味わいで、同じ〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉を飲んでいるのが面白いです。藤原さんにとっては、温度や匂いまで記憶に残っているんですね。

藤原さん:温度もおいしさのデザインなんですよね。〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉は、少ない製品デザイン要素にも関わらず、あの四角い蓋を開ける動作や香り、味という独自の行為のタグが複数あるので、印象のデザイン性が高いのも納得です。ロングセラー製品は、 時間を自由に行き来できるパワーを持っているのだと思います。

〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉はなぜロングセラー製品になったのか?

藤原さん:〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉が日本で発売したのは、1967年。日本初のフリーズドライ製法を導入したという革新的な飲み物でしたが、当時から日本全国どこのスーパーでも買うことができました。ハンドドリップやコーヒーマシンは、まだハードルが高い時代です。誰でも簡単においしいコーヒーを飲めるようになりましたよね。

中西さん:少し自画自賛的な言い方になりますが、日本においてコーヒーを飲む文化や習慣を根付かせたのは『ネスカフェ』だと言えるかもしれません。今や、『ネスカフェ』のコーヒーは世界で毎秒6,000杯飲まれているんですよ。

藤原さん:毎秒6,000杯!? 今、この瞬間に世界で6,000人が『ネスカフェ』のコーヒーを飲んでいるということですよね。すごすぎます。中西さん的に〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉がロングセラーになった理由についてどう考えていますか?

中西さん:そうですね。繊細に織りなす上質な香りとすっきりとした後味といった味わいはもちろんのこと、その時代において人々の憧れとされるような生き方や価値観に焦点を当てたコミュニケーションを継続して実施してきたことも、貢献していると思います。 あとは、小さな改善を地道に続けていることが自慢です。新パッケージの製品を見てもらえませんか?

発売から56年。進化をし続ける〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉。今回のリニューアルで、おしゃれなキッチンに馴染む上質なデザインに。

〈ネスカフェ エクセラ〉シリーズも、さらにモダンなパッケージに。最近は、カフェインレスタイプの人気も高まっているとのこと。それぞれの好みやライフスタイルに合う製品を選べるところも魅力。

手軽に飲めるスティックタイプ。抹茶ラテやほうじ茶ラテ、ミルクティーなどを展開するふわラテシリーズも人気。

藤原さん:パッケージデザインが、すごくスタイリッシュになりましたね。そういえば〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉の瓶の側面が凹んでいるのは何か理由があるんですか?

中西さん:フタを開けるときに、手馴染みの良さを重視しています。ネジ式ではなく、一回転で開くようになっているので、クッと一瞬で開けられるように。かなりこだわったポイントです。

藤原さん:この”グリパカッ”の所作こそが〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉なんですよね。

中西さん:1日に2〜3回飲まれる方も多くいらっしゃいます。小さなストレスを減らしていくことがとても大切でした。1日に何度も触れる食品の容器って、意外と少ないと思うんです。

藤原さん:確かに!大好きな調味料だとしても、そこまで多くないかも。やっぱり、瓶の設計からこだわっているんですね。

中西さん:あと、藤原さんにこの詰め替え用の〈エコ&システムパック〉を試してもらいたいです!こちらもワンアクションです。フタを開けて、空き容器の上被せるだけでセット完了。あとは、上から押しこむだけで簡単に詰め替えできます。1粒もこぼれませんよ。

藤原さん:やりたいです!本当に押すだけ?(笑)

中西さん:どんと押し込んじゃってください!

詰め替え用製品を、空き瓶の上にセットして上から押すだけ。詰め替え方法にも独自の技術を生かしている。

さらに対象のスーパーマーケットでは、〈エコ&システムパック〉専用の回収箱も。紙から糸を作り、ハンカチやTシャツにアップサイクルするプロジェクトを実施している。

藤原さん:感動です!一瞬で全部入ってしまいましたね。

中西さん:プチプチをつぶすような爽快感がありませんか?

藤原さん:プチプチ以上です!詰め替えるときも、瓶の凹みは重要ですね。押さえやすくて安定します。あと、容器がほぼ紙でできているっていうのも、素晴らしいですね。

中西さん:発売当時はもっとプラの割合が多かったのですが、極限までプラの量を減らしています。あとは瓶のリユースや廃棄する際、パッケージのラベルも一瞬で剥がれます。こちらもぜひ試してください。

ラベルがするする剥がれていく様子に「気持ち良い!」と大絶賛の藤原さん。

藤原さん:わあ。一瞬で剥がせますね。しかも瓶にシール跡が残らず、ベタベタしない。世の中の瓶製品全てがこうなってほしい(笑)。開け閉めだけじゃなくて、瓶のリユース視点にもこんなに工夫が詰まっているなんて、思いもしませんでした。

中西さん:こんな風にどんどん小さな改善がされて、進化し続けているんですよ。

藤原さん:〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉のコーヒーを飲むとき、そもそも少ないアクションで済むんです。あまりに簡単だから、昔から一度も手間に思ったことがない。全員そうだと思います。それでも、動作の1つずつに丁寧にフォーカスして、少しでもスムーズになるような工夫を追求し続けているとは。いや〜じっちゃんにも進化した〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉の秘密を聞かせてあげたかったな。

新メッセージ「そのコーヒーは、あなたをちょっとだけヒーローにする。」の意図

世界188カ国で共通する、ネスレのブランドロゴ。2020年に刷新し、やさしいトーンのオーク色に。

ネスレが誇るもう一つのロングセラー製品〈キットカット〉。最近のリニューアルで、味わいと食感がさらにパワーアップ。

この秋より、コーヒーメーカーにもスリムな〈ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ スリム〉が登場。〈エコ&システムパック〉を充填して使用し、淹れたてのコーヒーを手軽に楽しめる。

藤原さん:2023年10月から「Make your world」という、新コンセプトをもとにしたコミュニケーションが始まるそうですが、どんな想いが込められているんですか?

中西さん: 全体の大きなテーマとしては、サステナビリティや環境問題。世界188カ国でネスレは展開していて、『ネスカフェ』の新コンセプトである「Make your world」自体は、全世界共通のものです。ただ「Make your world」と突然言われると、なんだか壮大な気がしてしまいませんか?

藤原さん:確かに。ちょっとマジカルというか。

中西さん:世界と比べると、日本は残念ながらサステナビリティへの意識はそこまで高くないのが現状ですが、かといって全く意識していないわけではない。この前サッカーW杯の試合の後、日本人サポーターのゴミ拾いが世界でも話題になりましたよね。“もったいない”とか、良いものを直しながら長く使う価値観とか、日常にちゃんと根付いているんです。やってますよ!って、みんな大きな声では言わないけれど…。

藤原さん:美徳に近い感じなのかな。他者を慮るというような。すごくしっくりきます。

中西さん:その想いを『ネスカフェ』が少しだけ後押しできたらと「そのコーヒーは、あなたをちょっとだけヒーローにする。」という日本独自のブランドメッセージをつけました。生産者や環境に配慮して作られたコーヒー豆を使った一杯を選ぶことが、自分や周りの世界を少しずつ変えるきっかけとなることを伝えたい。My worldからOur world、そしていつかThe worldに繋がる。それはあくまで一杯のコーヒーから、なんです。

藤原さん:無意識のうちに実はいいことをしていたと気づいた時って、なんだか気分がいいですもんね。今まで飲み続けてきて良かったと思います。あ、新しいパッケージにも書いてありますね。

ほぼすべての『ネスカフェ』製品のパッケージに記載されてる新コンセプト。

中西さん:もちろん、『ネスカフェ』の全製品に責任ある調達基準を満たしたコーヒー豆が使われていることはきっちりお伝えしていきたいですが、“いつの間にか”くらいの温度感がちょうどいいと思っていますね。小さな積み重ねが、より良い未来へ繋がっていくことが一番伝えたいポイントです。

藤原さん:忙しい日常の中で、コーヒーを飲んだ時間に訪れるほわっとした気分。少しだけ時が止まるような特別感があります。それがきっかけで世界が広がっていく。日常の中でも「ちょっとだけ」というのが、全体のコンセプトの中でも重要なところなんですね。

中西さん:その通りです。『ネスカフェ』はコーヒーと共に、それぞれの時間に寄り添い続けたい。そして、毎秒6,000人がコーヒーを飲む際に、少しだけ未来に思いを馳せたら、大きな力になっていくと思うんです。クウネル読者の方にも、その繋がりを感じてもらえたらと思います。

藤原さん:それを大々的に言わないところも、なんだかかっこいいですね。毎日『ネスカフェ』のコーヒーを飲むだけでいい。自然なかたちでアクションに繋がるというのが、本当に素晴らしいです。〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉のことが、一層大好きになりました。今日はありがとうございました!

・取材を終えて・

コーヒーの話をしているのに、今の自分のことより、かつて母や祖父がコーヒーを飲む姿ばかりが、思い出されました。私も今や、あの頃の母と同じ年代になって、同じようにのんびりと〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉のコーヒーを飲む時間を楽しんでいると気づきました。ロングセラー製品は、時間を自由に行き来できる力を持っています。想いを馳せる力は、今をポジィティブにし、これからの日々を豊かにしてくれます。どうやら私がコーヒー甘党なのは、"違いがわかる男"こと、〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉を愛するじっちゃん譲りだったようです。こんなかたちで、お茶っこの文化や我が家の味を継ぐことができて嬉しいです。(藤原さん)

中西弘明/なかにしひろあき

ネスレ日本株式会社 飲料事業本部 マーケティングスペシャリスト。ネスレ日本に入社後、東北や関西での営業や、営業企画業務に従事。2022年より飲料事業本部にて『ネスカフェ』のブランドマーケティングを担当。〈ネスカフェ ゴールドブレンド〉や、新コンセプト「Make your world」のブランドコミュニケーションをリードしている。

https://nestle.jp/home/brands/nescafe

藤原奈津子/ふじわらなつこ

株式会社OFFICE COMATCH代表取締役。ものづくりの先をデザインする独自のブランドデザイン「アプローチデザイン思考」を軸に、 広告デザインでは各種広告賞を受賞。担当ブランドは続々とヒット。栄養士/クリエイティブディレクター/コピーライター/イラストレーターなど、複数のデザイン専門職種を越えてシームレスに活躍し続ける“マルチポテンシャライト“として注目される。また、キッチンツールの目利きセンスを活かし、雑誌やTV等にも出演中。

写真/中村優子、編集/草地麻巳、文/阿部里歩

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