いま二拠点生活を送る人が増加中。東京・栃木の2カ所で暮らすデザイナーのお部屋を訪問【後編】

日々をもっと輝かせるために、生活の拠点を2カ所に持つ人が増加中です。今回は、東京と栃木で二拠点生活をおくるデザイナー・橋本靖代さんの栃木・黒磯のご自宅をご紹介。ライフスタイル、センス、人生観が反映されたお部屋は必見ですよ!

PROFILE

橋本靖代/はしもとやすよ

アパレル会社退職後、n100にて活動し、2018年に自身によるブランドeleven 2ndを設立。 Instagram:@eleven2nd。KoYA shop問合せはe-mailで。

出会ったがらんとした空間を自由にアレンジして楽しむ

手元は隠れる高さに設定、側面は漆喰にしたカウンター。神宮前と同じ照明が強い印象。内側の棚の段幅も住みながら調節、実は小さめの冷蔵庫も収まっている。

前編では、橋本さんの東京・神宮前にある住居兼オフィス兼アトリエを紹介しましたが、今回は栃木県の黒磯のお宅を訪問します。

橋本さんが職住一致の拠点である東京に暮らして3年が経過した頃のこと。

「ちょうどコロナ禍で外出を控えていて、インテリアの本を見ながら、部屋の配置換えを妄想していました。そんな時にたまたま、友人のインスタグラムで魅力的な物件を見つけて釘付けになり即、黒磯に見に……」

生まれてからずっと東京暮らしの橋本さん、地方に暮らすことを考え迷う前に、話はトントンと進んだのだそう。

「オフィスの支部兼セカンドハウスとして物件を借りることに。資金面も自治体の補助制度を活用でき、新生活への踏み出しにはラッキーでした。また、近所に友人のタミゼテーブル店主、高橋みどりさんが移住していることにも背中を押されて、するりと二拠点生活をスタート」

壁を剥がすと出てきた赤茶の鉄骨はそのままにしポイントに。リビングにもなる場所には大きめソファやチェアを。船のパーツのような照明もかっこいい。

ビルの2階に向かう階段下はパントリーに。ドナルド・ジャッドのデザインに近づけた斜めカット、だそう。中にはトースターや食品ストック等々を。

キッチンカウンター下の食器棚は神宮前と収納のデザインはほぼ同じ。東京ではあまり使わないけれどこちらでは使いそうという食器類も持ってきた。

長らく使われていなかった空間の床や内壁を剥がすなどの作業は専門の会社に頼み、居心地を高める内装は再び伊能さんが担当、泊まれるレベルに達した昨年春から通い始めました。

「最初は週末ごとに、と思ったけれど慌ただしすぎてひと月に1週間か10日を黒磯で過ごすというペースに落ち着きました」

ガレージや工場のような風情の吹き抜け。ビルの一階の、路面とフラットな生活では寝室以外、土足です。家具はここに合わせ作ったり購入したものが多いけれど、神宮前の硬質かつ温もりもあるイメージは共通しながらワイルドで、同時にゆるめな空気も漂います。神宮前でも目立つキッチンは、ここでは雰囲気や使い勝手は踏襲し、よりシンプルでおおらか。天井もとても高くにあります。楽しそう。

「神宮前に似ていますよね。田舎で気分転換する目的ではないので、好きなようにやったら雰囲気は似たということかと。がらんと四角い箱をあれこれ検討して作るのは面白くて。2人とも建築デザイナー、ドナルド・ジャッドが好きで少しイメージを頂きました」

「ものが大好きでついたくさん集めてしまう」点も共通する2人は、新しいスペースに好きなものを引き寄せ、リラックスしているようです。

十二分な広さ高さを生かして働きながら寛げる羨望の空間

向こうは伊能さんの作業スペース。最初は予期せぬ雨漏りとかいろいろあったけれど今は解決。手前のくつろぎスペースと鉄柱で適度なエリア分け。

「家内制家づくりのいい点は、実際に暮らしながら、ちょこちょこと住みやすさがアップするように変えていけることですね。普通に施工会社に頼んだ場合、完成形で引き渡されてから入るから、住みやすさを細かく検討している機会がないですものね」

玄関に使い勝手の悪さを感じたら、別に出入り口を設けるようにする、冬の寒さに困ったら窓に一枚見栄えもいいアクリル板を足す等、さまざまに調整を加え、居住性は高まっています。そして、まだ家づくりとしては途中経過。伊能さんが自宅のことで奥の仕事場に入っている時間は、最近も長いようです。「寝室の壁にTVを取り付けるのを頼んでいます。また、寝室の床の湿気対策についても話しているところです」

パソコン仕事などのためのスペース。デスクや窓を囲むウッドと照明やロッカーの質感が素敵なコンビネーション。ロッカーのすぐ左手はエントランス。

壁を剥がすと出てきたステンレス板壁が味わいある風情。大きなアンティークトランクを置き「しっかり飾りたかった」チェ・ジェホ作の白磁を。

赤い扉はもともとのまま残した。細い廊下のような形で白い水回りを新たにつくった。シャワールームの戸もライトな波形アクリルを取り付けて。

時を経た大空間には、本当に住んでみないとわからないことは多いと思います。

「ただ、男性の感覚だとかっこいいことを突き詰めるというか完成度が高いので、きまりすぎを避けるよう気をつけています。何か作ってもらう時もそこはそれくらいで留めてと頼むこともあるんです」

かっこよさに圧倒されすぎないのは橋本さんの塩梅をみたディレクションゆえなのかもしれません。そして置きたいものを徐々に運び込んだり、持ち帰ったりもフレキシブルに楽々できているようです。

楽しみが少しずつ増えている地方らしい暮らしのシーン

道路に面していてもさほどの人通りなし。ゆるりとナッツを燻製にして楽しんでみる。木の台は韓国の外用縁台の再現、憩いの場に。

「東京からは意外に近く、車で2時間半で移動できるので、課題を持って来るのもストレスはないんです。元気のない植物の鉢を持って来たり、早めに食べなくてはいけない食品や仕事の資料もしかり。そして、仕事はこちらではできるだけ単純な事務等にして軽めにするように調整しています。本はどちらでも読むけれど、厚めの本を集中して広げる、料理なら燻製は黒磯で……!」

それぞれの場所でしかできないことを考える醍醐味も、二拠点生活ならではのもの。

「また、たとえばトランクの上に置いた大きな白磁の壺等、神宮前でなくここでこそ映えるというものを見つくろう作業もあり、けっこうやることは多いですね!」

数年前に移住しショップを営む高橋みどりさんの畑の一角を借りて手のかからないハーブ等を育てている。来るたびに収穫に興じて。

好きなケーキ屋、パン屋、コーヒーショップ、食品のセレクトショップ……街内の移動は自転車で。中にラフに置いておける。

田舎暮らしにただ都会生活からの脱出を求めるのではなくて、ある程度、都会生活のスタイルを延長しているのも、橋本さんの強みな気がします。

「時間や空間がゆったりしたなかで、仕事もプライベートも、スピードをゆるめながら過ごす、そんな形が合っている気がします。空間をあれこれ演出する楽しみも広がっていますし、もちろんローカルな喜びも体験的に増えてきていて、満足。拠点が複数になって、気がつけばいいことがいっぱいでした」

前編はこちら

写真/山崎智世、取材・文/原 千香子

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『クウネル』No.122掲載

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