エッセイストの酒井順子さんが「好きな街」としてあげる、福島市。
5月20日発行『クウネル』本誌7月号の「私の贔屓の店」ページの取材で訪れた足で、2年半ぶりに福島を旅した酒井さん。いつも行く「あそこ」に加えて、噂に聞いたスポットを訪ねたり、ピクニックしたり。旅の詳細を2回にわたってお伝えします。
福島市ってどんな街?
「福島には出張の帰りにふらりと寄ることもあれば、温泉への足場にすることも。また震災以降に出会って仲良くなった友人たちを訪ねるだけのことも…」と、かなりの福島リピーターである酒井さん。
「福島市は派手な観光地的なイメージは薄いかもしれませんが、お米も野菜も果物も美味しく、買い物は楽しく、温泉もあちこちに。生活の基本が豊かなんです。住む人たちの地元愛や生活の充実度が行く度に伝わってきて、どんどん好きになる街」
今回は本誌で取材した福島通いのモチベーションにもなっている「気持ちいい人たちがいる気持ちいいスポット」から訪ねます。
おしゃれで和める街のステーション
ニューヤブウチビル
「福島に来ると必ず立ち寄り、基地みたいにしてさせてもらっているのが、藪内さんのところです」
本誌で取材した「オプティカル ヤブウチ」があるのが福島市の中心地にある大町通り。商店街のランドマークとも言えるのが、ニューヤブウチビルです。
「何か面白いことがありそう! という空気が充満しているビル。オーナーの藪内義久さんが、自身の店づくりに加え、自身が共感するショップをテナントとして呼んでビルごと、そして町ごと、コミュニティのように育ててきた感じです。行けばいろんな人に会える気がします。
今回も、たまたま東京から遊びに来ていた友達と、ここでバッタリ。東京ではしばらく会っていなかったのに。彼女はこれから浜通り(福島県の沿岸地域)に行くって言ってました」
#1
オプティカル ヤブウチ
きれいにリノベーションされた味のある建物の1階が『オプティカル ヤブウチ』。クラフツマンシップ&アーティスト性の高いブランドが集められ、工房の様子も見えるいわば眼鏡の殿堂で、本誌取材と同時に店内散策に没入していく酒井さんです。
藪内さん夫婦はそれぞれ、東京の雑貨店での勤務経験もあるとか。店内のディスプレイもものづくりの精神に通じる堅実さがありつつ、洗練されています。
酒井さん、この店では眼鏡を誂えるだけではなくて「奥のファッション小物、生活雑貨を集めたコーナーでは必ず買い物をしています」ということで、今回も取材があらかた終わるとてきぱきと購入へ。
「吸湿性抜群でアイロン要らず、色柄の明るさもいい。自分用にもギフトにももってこいで、この間来た時より種類が増えたよう」というハンカチと「締めつけ感が無く、デザインはシンプル。意外に見つからないタイプの」ソックス。必需品の補充もできました。
オプティカル ヤブウチ
http://www.eye-y.com/
#2
食堂ヒトト
3階に上がって、オーガニック野菜を中心とした料理を提供する『食堂ヒトト』でも一息つきます。6年前に東京・吉祥寺から越してきたお店です。日替わりスイーツや玄米と野菜のランチ定食が人気。今日のドーナツも「やさしい甘さで、ほっとできました!」
食堂ヒトト
http://hitoto.co/
そのほかフラワーショップ『Total Plants bloom』、ギャラリー『oomachi gallery』、レコードショップ『Little Bird』といった個性的なテナントが集合しているニューヤブウチビルは、街の空気をつくっているよう。
「大町商店街にあるレトロな雰囲気と、今のセンスが気持ちよく溶け合っていて、気がつくと長居してしまう場所です!」
#3
Total Plants bloom
Total Plants bloom
http://bloom2006.jp/
ニューヤブウチビビル
住:福島県福島市大町9−21
コンパクトな移動で大きな収穫。
地方での買い物の有利なポイント!
本誌企画で取材したもう一軒の贔屓店、セレクトショップの『pickandbarns』は目と鼻の先。ハシゴ感覚で流れていきます。
「東京以外の街で買い物をするのが好きなのですが、中でもこちらのお店での買い物は福島を訪れる楽しみの一つ。東京の大きなお店は品揃えの幅が広すぎて疲れることがありますが、こちらは商品の揃え方が狭すぎず、ちょうどいい選択の幅の中から快適に選ぶことができます」
店主・高橋省吾さんはじめスタッフで「酒井さんがたぶん好きなはず」というアイテムをピックアップしておいて下さっていました。一点一点説明を聞いてから、じっくり試着。お店の方々としっかり話しながら選ぶことで、買い物本来の楽しさを思い出すひと時になりました。
「今回も充実の買い物ができました。すぐに役立ちそうなものをがっちり確保」
『pickandbarns』ではエンジニアードガーメンツのコードレーンのジャケット、サイベーシックスのデニムジャケット、セントジェームスの薄手カットソーに決着。カジュアルでなおかつ、酒井さんらしいきちっと感があるアイテムばかり。そして買い物の成果は…さすが旅慣れた大人!「宅急便で送ってもらいます」ということで、身軽にまた街巡りを続行。
古本に加えこけし色アップで、
また楽しくなったブックストア
大町通りから北へぶらり。数分で「Books&Cafeコトウ」に到着。こちらには以前も何回か来店しているそうですが、「古書店なのですが、うかがえなかった間にこけしの取り扱いが始まって少しずつ増えているという噂を聞いています。気になる‥‥」
店に入るなり、こけしの存在感に実際驚いた酒井さん「なぜ?」と店主・小島雄次さんに尋ねると、
「東北では、古本と一緒に古いこけしも出てくることが多いんです。それで一緒に置くようになり、だんだん可愛くてしょうがなくなってきて……。こけしファンは多くて、インスタグラムにアップすると反響が大きいんです」というご返事。小島さんのはまり具合に比例して、引き取ってくるこけしが増えているのだとか。
「シルクハットかぶったこけしなんてしゃれてますね。以前土湯温泉に行ったときには、こけし博物館『原郷のこけし群 西田記念館』を見学しました。伝統こけしには作られる場所によっていくつかの系統があるそうで、それぞれの個性の違いが面白い。ちなみに私は、土湯系の中でもギョロッとした目つきのたこ坊主というタイプが好きです」
店内にも今、たこ坊主は何体かいるようです。本とこけしがセットで愛されている東北の温かみを感じるお店です。
「そういえば私も、家ではこけしコレクションを本棚に置いています! 本とこけしは、同じ棚に並ぶ仲間なんですね。愛おしげにこけしを眺めている小島さんもまた微笑ましくて、世俗の慌ただしさを忘れられるお店です」
コトウでコーヒーをテイクアウトして、外の椅子で一服。「本とこけしと東北人」のいい関係を噛みしめました。
Books&Cafeコトウ
古本、新刊本、こけしを扱う。喫茶は現在ドリンクのテイクアウトのみ。
住:福島県福島市宮下町18-30
FUKUSHIMA CITY MAP
市内歩きに酒井さんもよく使うマップ『福島ナビ FUKUSHIMA CITY MAP』もご紹介。
「大町商店街の店などにおいてあります。商店街有志の手作りによるもので、初めて福島市を訪れる人にもぴったり」。
ゆっくり福島の旅はまだプロローグ。【酒井さんの福島旅・遊山編vol.2】もお楽しみください。
『クウネル』7月号の「贔屓の店」ページもぜひ!
酒井順子/さかいじゅんこ
エッセイスト。高校生時代より雑誌『Olive』への寄稿を始め以降長く、雑誌、新聞等にて活躍中。2003年『負け犬の遠吠え』(講談社)が大きな反響を得る。近著に『うまれることば、しぬことば』『家族終了』(ともに集英社)、『ガラスの50代』(講談社)がある。
写真/富永よしえ 取材・文/原千香子