演劇ジャーナリスト・伊達なつめさんのおすすめシアター『桜姫東文章』

桜姫東文章  成河、石橋静河

鶴屋南北作の約200年前の名作に注目が集まっています。
気鋭の演出家と最強キャストで新たな『桜姫』が登場。

歌舞伎でも現代劇でも、『桜姫東文章」がブーム!

玉三郎と仁左衛門が80年代と変わらぬ艶めかしい退廃美をスパークさせて話題になったのをはじめ、近年、本家の歌舞伎でも現代劇でも、鶴屋南北の『桜姫東文章』(1817年初演)がちょっとしたブームになっています。

若い僧と美少年の心中未遂という発端から、その美少年の生まれ変わりと目される深窓の令嬢・桜姫の女郎への転落の過程と、底辺に堕ちてからの意外なたくましさ。

最後は何事も なかったようにお姫様に返り咲いてしまうエグ味を伴う痛快さが、現代人に大受けしています。

木ノ下歌舞伎主宰の木ノ下裕一は、 歌舞伎の原文台本を精密に読み解いて、現代の上演にふさわしい改訂を行う、該博な知識とセンスに定評があります。

今回の上演でも、これまでの歌舞伎上演ではカットされてきた場面を復活させて、BL味やリアルなラブシーンなど、刺激的要素に偏りがちなこの作品の、本来の構造と本質をとらえ直すことに取り組んでいます。

木ノ下が補綴した台本を現代語訳し、演出するのが岡田利規。池澤夏樹個人編集の『日本文学全集』で「能・狂言」を担当した際にも、その独自の言語感覚が冴え渡っていましたが、演出家としての岡田は、能やバレエ、そして今回は歌舞伎と、確固たる様式を持つ古典芸術の演技・演出法を、フォーマットとして活用することに積極的です。

本来、台本とメソッドが 一体となって生まれる古典作品の魅力や味わいを、今回初めてかかわる歌舞伎についても発見・咀嚼して、観客に提示してくれることでしょう。さらに成河や石橋静河など最強の配役を得て、『桜姫』ブームの頂点を極める作品になる予感がします。

文/伊達なつめ

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