旅の醍醐味は「中日」にあり。とにかく連泊、観光地は行かない。54歳エディターの理想の旅行プラン【メロウライフ】

エディターの山村光春さんと、エッセイストの広瀬裕子さんによる往復連載。
「60代以降に使われる『シニア』という呼び方がどうもしっくりこない」という2人が、「私たちらしい人生の後半戦」について模索します。シニアでもなく、シルバーでもなく……。だったら「メロウライフ」なんていかがでしょう?
今回は「理想の旅行プラン」がテーマ。人にも時間にも追われたくない山村さんと、アクティブに動き回る広瀬さん。そんな真逆の“理想”が、浮き彫りになりました。
⇒広瀬さんの記事 60歳広瀬裕子さんの理想の旅行プラン、今こそ東京が面白い?革クルーズや観劇、江戸職など【メロウライフ】 を読む。
ドがつくほどのケチな僕
スーパーの惣菜やお刺身コーナーに行くと、割引シールが貼ってるものばかり買ってしまう。割引シールがなきゃ食べものじゃない!とでもばかりに、そこにしか目に入らなくなる。なんなら割引シールのために、夜の8時までスーパーに行くのを我慢したりもする。
そんな、ドがつくほどのケチな僕。なのにわざわざ東京と福岡におうちをふたつ持ち、行ったり来たりする交通費もバカにならない。たいへんな浪費。自分でもわけがわからない。この矛盾はいかがなものか。
知人にそう訴えたところ、彼は飄々とした表情で「それでいいんじゃないですか」と言った。
「『お金をセーブする』という目的があれば矛盾かもしれないけれど、東京も福岡も、割引シールも好きなんでしょ。だったらまったく矛盾はしてない。やりたいことをやってるだけじゃないですか」
と言われ、目からウロコがぽろぽろ落ちた。確かにそうだ。僕はやりたいことをやっているし、旅だってしたいようにしている。
「ゆずれないところ」の一位は「泊数」

「箱根リトリートföre」の部屋。ソファのマットを勝手に窓際に動かし、ここでゴロゴロしながら、日がな本を読んでいた。
1泊2日はなるべく避け、ほんとは3泊、だめでも2泊。とにかく連泊はしたい。なぜなら旅の醍醐味は、ほぼほぼ“中日”にあると思うから。朝から晩までひとりきり、人にも時間にも追われることなく、のんべんだらりとひきこもる。仕事してもいいし、しなくてもいい。出かけてもいいし、出かけなくてもいい。

同じく「箱根リトリートföre」にある、眺めのいいカフェで、仕事しながら朝ごはんを食べる。
出かける時は、近くに手入れされた神社やお寺があればうれしいけれど、有名な観光スポットには興味がない。Googleマップを見て、こってりグリーンに塗りこめられたエリアをめざしつつ、ままよと歩いたり、走ったり。
出かけない、と決めたらずっと部屋で本を読む。集中できるし、1冊読み切ると達成感もある。そしてなぜかそうして旅で読んだ本は、中身もよく覚えている。

本を読んでいて気になるフレーズが出てきたら、スマホで撮影しておく。ここで気になったのは「文句なしに最悪の打撃」
だからこそ、宿のチョイスは大事。でも俗に言う「いいホテル」は高いので連泊が難しい。なので値段もそこそこの「ちょっといいホテル」が、僕にとってはちょうどいい。
僕にとっての「ちょっといいホテル」
ソファは欲しいけれど、広くなくてもいい。清潔感は必須だけれど、華美でなくてもいい。眺めもいいに越したことはないけれど、それより窓が開けられて、風を通せたほうがもっといい。サウナや温泉もうれしいけれど、部屋のお風呂だと本が読めるので、それでも十分。

「エースホテル京都」の部屋は、シンプルだけど飾られたアートや照明などが洒落ていて、居心地も“目心地”もいい。
食事も、ついてないほうがむしろいい。なぜなら地元のスーパーに行くのが、何よりもの楽しみだから。
夜の8時になるとそわそわ、やにわにホテルを飛び出し、暗がりのなか、煌々と明かりのついた大きな建物へと向かう。
調理はできないので、お刺身とか、惣菜とか、珍味的なものとかをしこたま仕入れる。もちろん、我が愛しの割引シールが貼られていないかのチェックは怠らない。
そそくさと部屋にもどり、お風呂に入り、その間に冷やしておいたビールをプシュッ!
あぁ、豊か。
日常でも旅でも、つまるところ好きな過ごしかたは、そんなに変わりがないのだった。

湯布院「山荘わらび野」は、センスがよくて尊敬する友人の別荘に泊まらせてもらったような感じ。心から落ち着く、リカバリーの部屋。
~アフターメロウトーク~

山村さんは、地元のスーパーマーケットにはないもので、旅に必ず持参するものはありますか。

連泊ひきこもり旅の場合、持っていく洋服選びは大事です。チェックイン、アウト時のきちんとしたカッコとは別に、部屋でも、ランニングにも、スーパーへの買い物にも使える、マイワンマイルリカバリートレーニングウェア(長い!)を必ず持参します。