【映画好きの3本】書評家・ライターの豊﨑由美さんのどうしても吸い寄せられるデテステな映画への愛

その名もズバリ、各界の映画好き著名人がそれぞれの視点でおすすめの映画3本を紹介する「映画好きの3本」。今回は書評家・ライター豊﨑由美さんのおすすめをご紹介します。

どうしても吸い寄せられる デテステな映画への愛について。

好きな3本のテーマとして豊﨑由美さんが迷わず挙げてくれたのは「デテステ(悪趣味)」。ただ眉をしかめる前に、その大好きなポイントと分析に注目。

「デテステは良い趣味の逆ではなく… 一つのセンスだと思っています。世の中にはそんなセンスが存在することも好きじゃない人も大勢いるけれど、積極的に好きという人も一定数いるはず。実は文学を案内する時も少しずつそちら系を入れるようにしているんです。ただ人間不信から発した暗い悪趣味の、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のような観た後トラウマになる映画は苦手で」

1_『ポルターガイスト』

スティーヴン・スピルバーグが製作・原作・脚本を手掛けたことでも知られるホラー映画のクラシック。末娘が放送終了後のテレビ画面と話しているという前ぶれから、開発された区画に移った一家に降りかかる超常現象は激しくなり……。

監督/トビー・フーパー 出演/クレイグ・T・ネルソンほか 1982年

© 1982 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

一本目はホラーとして不朽の名作と言われる『ポルターガイスト』です。

「傑作『悪魔のいけにえ』も監督したトビー・フーパーが大好きで。『ポルターガイスト』はプロデューサーのスピルバーグがフーパーを大抜擢したのだけど、現場ではその悪趣味具合を毛嫌いして演出に介入し続けたといういわくつきなのが面白い。女の子がTV画面を見てる有名なシーンなどは絶対スピルバーグ演出と思われ、一方うごめく肉と虫を台所で見せた後、男の顔が溶け出し掻きむしるシーンとか工事中のプールから白骨が次々浮かび上がり、棺桶が地面を突き破り登場人物たちにミイラがからみつくシーンはフーパー節が効いていて興奮します」

ブルーレイ:2,619円/DVD:1,572円
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント

2_『ミッドサマー』

大学生ダニーはボーイフレンドのクリスチャンや友人たちとスウェーデンのある村で90年ぶりに催されるという夏至祭を訪れる。美しく、のどかなコミュニティと思われた村に秘された風習が徐々にあらわになっていく。

監督/アリ・アスター 出演/フローレンス・ピュー、ジャック・レイナーほか 2019年

© 2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

UHD+ブルーレイ普及版2枚組:7,480円
発売・販売元:TCエンタテインメント

アリ・アスター監督に見えるのは少しトリッキーなデテステかも?! ヒットした代表作『ミッドサマー』をセレクト。

「きれいな絵作りをしながら、なかなかの悪趣味具合。フーパー監督は天然だけどアリ・アスターは意識的に学習した気がする。たぶん私みたいに悪趣味礼賛派として、人間に与えるその衝撃や価値がわかっているのでは。スウェーデンの閉鎖的な村を訪れた若者たちの話なのだけれど、極めつけは祭で年長者が崖から××され、その後××される問題シーンがあります。その対象が往年の美少年俳優ビョルン・アンドレセンですよ。この〝美〟の破壊は意識的なはず。ここで映画館を出る人がいるとも予想してたでしょうね。アスターは夢と現実、美と醜悪を地続きに描く映像作家で、その解釈は観る側に委ねる人。その地続きがもたらす知覚の混乱を楽しめばいいんです」

3_『気狂いピエロの決闘』

スペイン内戦に駆り出され亡くなった父に倣い、ピエロになったハビエルはサーカスの花、ナタリアに恋心を抱き彼女の暴力夫、花形ピエロのセルジオと死闘を繰り広げることに。ベネチア国際映画祭で銀獅子賞ほかを受賞。

監督/アレックス・デ・ラ・イグレシア 出演/カルロス・アレセスほか 2010年

写真 aflo

スペイン映画の『気狂いピエロの決闘』は映画の目利きとして一目おく友人の強いすすめで観たのだそう。

「ドンピシャでした。泣き虫ピエロのハビエルとスターピエロのセルジオが美女をめぐって血みどろの闘いを繰り広げるんですが、ハビエルの騎士道精神の話かと思いきや、闘いは理不尽ですさまじくぶっ飛んでる。肋骨を折って入院したハビエルが、脱走して真っ裸に入院着だけ、お尻丸出しで逃げ回るシーンが可笑しくて、私はずっと見てられます。でもって裸で隠遁生活を送っていると狂気がたかまっていくシークエンスも最高。この監督の悪趣味の真骨頂は笑いです」

デテステというクセの強いセンスの映画3連発。豊﨑さんの理屈抜きの好みはやはりとても興味深い!

PROFILE

豊﨑由美/とよざき・ゆみ

多くの雑誌、WEBにて連載をもち新刊も相次ぐ。詩人・広瀬大志さんとの共著『カッコよくなきゃ、ポエムじゃない!』(思潮社)では現代詩の魅力をガイド。初のエッセイ集『どうかしてました』(集英社)には独特の感覚のルーツが。

『クウネル』2025年1月号掲載 写真/輿石真由美、取材・文/原 千香子

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『クウネル』NO.130掲載

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