終の住処と決めて引っ越した現在の家に至るまで、自分のために建てた家はなんと7軒。会社経営を経てフリーの建築家として活躍する<クウネル・サロン>プレミアムメンバーの井手しのぶさん。
昨年体験した愛犬との別れについてのお話を、シリーズでお届けします。
一人暮らしのかけがえのない相棒として9年間、共に過ごしたフレンチブルドックの昌夫くんが、脳腫瘍で昨年11月に息を引きとります。その後、新しい相棒の小太郎くんに出会い、家族として迎えることに。深い喪失感を乗り越え、新しい暮らしが動き始めます。
前回のお話はこちら↓
【60歳、井手しのぶさんのペットロスとの向き合い方vol.2】愛犬との別れを受け入れ、新しい相棒を迎えるまで。
やんちゃで頑固な小太郎くん。先住猫にも臆せず仲良し。
やってきた時は、まだ2ヶ月だった小太郎くん。当初はオドオドと緊張しているように見えたそうですが、今では物怖じも人見知りもせず、すっかり井手さん宅の主役に。
「亡くなったまーくん(昌夫くん)は従順というか、なんでも分かった、いいよ。っていうタイプでした。トイレもちゃんとできたし、病気になるまで粗相をしたこともありませんでした。こっちゃん(小太郎くん)は粗相はしょっちゅう、朝は5時くらいに起こしてくるしもう最初は大変。閉まったものも全部引っ張り出してきちゃうから、うちの中は荒れ放題。でもだんだんお互いの調子がわかって落ち着いてきました。
散歩はあまり好きじゃなくて、道の途中で座りこんじゃったりして、すれ違う人に『大丈夫ですか?』なんて言われることも。頑固なので、一度座り込むと動かないんです。まーくんは絶対そんなことはしなかったですね。今こうやってまーくんのこと褒めてるでしょ。そうするとわざと粗相したりするの(笑)。頭がいいんですよね」
井手さんの家には、共に16歳になる2匹の先住猫、虎とブチャも暮らしています。多い時には犬が3頭いたこともあり、犬との共同生活に慣れてはいるものの、最初はやんちゃな小太郎くんを警戒していたとか。
「しばらくまーくんの看病につきっきりだったので、こっちゃんが来るまでは猫の天下だったわけですよ。特に雌のブチャは、『お母さんが自分を見てくれる』ってご機嫌だったのに、そこにこっちゃんがやって来て好き放題するものだから、最初は近寄るだけでシャーって言っていました。
雄の虎のほうは最初から我関せず。こっちゃんが遊びたくて飛びついたりしても、攻撃しないんです。ブチャは年齢のせいか最近痩せてきて、寝ている時間が増えてきましたが、こっちゃんにちょっかいを出されるとまだ負けていません」
おそらく最後の愛犬になる小太郎くんには、元気で長生きしてほしい
まだまだやんちゃな子犬の小太郎くんですが、脳腫瘍に苦しんだ昌夫くんを看取った辛い経験から、食事や健康管理には細心の注意を払っているそう。
「この子はまだ若いからそんなに頑張らなくていいのかもしれないのですが、ご飯は手作りのものをあげています。フレンチブルドッグはアレルギーも出やすい犬種なので、犬のご飯教室に通って、食材について勉強したりしています。犬の10年15年ってあっという間で、すぐにシニアになっちゃうから病気はなるべく未然に防ぎたい。やっぱりまーくんのことがトラウマになっているので、健康に過ごしてもらうため、できるだけのことをしたいと思っています」
唯一無二のパートナーだった昌夫くんの死による深い悲しみに沈みながらも、新しい家族の小太郎くんを迎え、庭に建てた小さな家には息子さんがお引越し。井手さんの新たな暮らしが始まった。
「今はこの子との暮らしを楽しんでいますが、いまだに『まーくんだったらこうだったな』って考えちゃうんです。それが分かるみたいでわざといたずらしたり粗相をしたりするので、あまり言わないようにしています。
こっちゃんも息子も、これから一緒に暮らしてみてどうなるか分からない。でもまだ自分に体力があるうちに、新しい展開を楽しまなくちゃと思っています」(次回へ続く)
取材・文/吾妻枝里子