呉 美保/お みぽ
2006年『酒井家のしあわせ』で映画監督デビュー。’14年『そこのみにて光輝く』でモントリオール世界映画祭最優秀監督賞受賞。’20年次男を出産、育児に仕事に毎日珍道中。
Short Essay :
「私のピラティス、雑念だらけ 」
38歳で長男を出産後、持病の喘息が悪化、免疫力もみるみる低下し帯状疱疹に、満身創痍で40歳を迎え藁にもすがる思いでピラティスを始めた。今年で5年目になる。
「10 回で気分が良くなり、20回で見た目が変わり、30回で体のすべてが変わる、それがピラティスです」初めてのレッスンでインストラクターさんに言われた時は目の前の霧が一気に晴れワクワクが止まらなかった。
現在、 受けたレッスンは優に30回を超え、つまりすべてが変わったはずなのだがゴニョゴニョ。 たしかに、ピラティスを始めたことで体の凝りをほぐすコツを覚え頻繁に通っていたマッサージに行かなくなった。胸式呼吸のおかげで気道も楽になった。
ただ、すべてが変わったかと聞かれ ればその境地には至っていない。 ピラティスをするのに最も大切 な「今この瞬間」に気持ちを向ける、すなわち瞑想ができていないから、なのだ。
やれ牛乳買わなきゃだの、今度のコマーシャルの音楽どんなんにしようだの、たった1時間なのに今に集中できた試しがない。ゆえに体はほぐされても心は落ち着かず、まったくどうしたら瞑想状態になれるのかと考えながら帰宅して牛乳を買い忘れたことを思い出す。
私という人間はピラティス3万回してもすべ ては変われなさそうだ。
文/呉 美保 写真/久保田千晴