人生100年時代と言われる今。エッセイストとして活躍しながら、50歳目前で設計事務所での建築・空間プロデュースという新しい仕事を始めた広瀬裕子さん。昨年発売された著書『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)では、「もう55歳」と「まだ55歳」を行き来する「55歳の今」を描き、同世代の女性を中心に共感を集めています。
「55歳は50代の楽しみと60歳への準備が重なる年齢」と語る広瀬さん。どうすればその期間を気持ちよくすごせるか、かろやかにいられるか。著書からそのヒントをいただきます。
第二回は、できるだけ電化製品は少なく。と暮らしてきた広瀬さんが、歳を重ねて新たに思う、電化製品との付き合い方についてです。
広瀬裕子さんのかろやかな歳の重ね方
広瀬裕子/ひろせゆうこ
エッセイスト、編集者、設計事務所共同代表、other:代表。「衣食住」を中心に、こころと体、空間、日々の時間、食べるもの、使うもの、目に見えるものも、見えないものも、大切に思い、表現している。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。主な著書に『できることから始めています』(文藝春秋)、『50歳からはじまる、新しい暮らし』(PHP研究所)など多数。インスタグラム:@yukohirose19
あたらしい関係
すいすい。あたらしい掃除機は、使う度そんな言葉がでてしまうくらいスムーズで自由な 動きをします。使うならたのしく。使うならすきなものを。助けてくれるものを。歳を重ね て思う電化製品とのあらたな関係です。
できるだけ電化製品はすくなく。そんなふうに過ごしてきました。けれど、この先できな いことがふえていくなら頑なに拒むことだけがいいとも思わなくなりました。 そう思いはじめると電化製品との関係は変化します。使う「もの」というよりも、わたし を助けてくれる手伝ってくれる「もの」。そう思うようになりました。
掃除機に関して言えば、それまで使っていたものも問題はありませんでした。ただ、時々、 出し入れが億劫になることがあり、使うのを「後にしよう」という場面も正直ありました。
棚のなかにしまっているという理由が大きかったように思います。 そういうこともあり、もし、つぎに掃除機を買い替えるなら、「後にしよう」という気持 ちにならないものがいいと思っていました。「後にしよう」がわるいわけではありませんが、 どうしても、すこし後ろめたい気持ちになるのです。そのためには、部屋のなかに置いてお いても気にならないものが理想です。思い立ったらすぐ手にできる。けれど、そう思える掃 除機はなかなかありませんでした。
待っているとでてくるものですね。「これなら」という掃除機にようやく出合いました。
使いはじめた掃除機は、戸棚やクローゼットにしまいこまなくてもいいデザインです。選 んだ色は黒。見た目も、使い勝手もよく、すいすいとよく動きます。その動きは掃除機と遊 んでいるよう。手軽な価格ではなかったのですが、日々「後にしよう」とならないほうが 先々いい気がします。気をつけていないとこの先、「後にしよう」がふえそうです。こうし て久しぶりに家にあたらしい掃除機がやってきました。
ひとともの、ひとと道具の関係は時代や年齢で変わります。すいすいと手伝ってくれる掃 除機も、何年か後には、まったくちがう形や意味を持つものになっているかもしれません。
自分に合うもの、納得できるものがあれば、試してみる、使ってみる。掃除のように意識 の変化もすいすい、と。
撮影 加藤新作
※本記事は『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)からの抜粋です
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