<クウネル・サロン>プレミアムメンバー青木美詠子さんは整理収納アドバイザーの資格をもつ文筆家。収納について本WEBで連載中ですが、「これからの生き方」についての考察も興味深く、収納記事と交互に綴っていただくこととしました。58歳を迎えた青木さんが、「もう58」と思うのか、「まだ58」と思うのか……。とても正直な声を届けてくれました。
58歳という年齢、とても「第二の人生」とポジティブには思えず…
この夏、58歳になりました。中身は20代、30代からあまり進化していないので、自分のことながら、ぼんやりと驚きます。人生の折り返し地点は、とうに過ぎて、下り坂です。
「下り坂」などと言わず、「第二の人生」と言うほうがポジティブでいいのでしょう。でも「下り坂」という、やや自虐的で、あきらめにも似た言葉は、私には正直で、なんだかかわいらしく思えます。
ひと昔前は男性も60歳くらいで退職し、主婦の方もそのまま家族と幸せに、という一生が多かった気がします。なので、いっせいに隠居は普通でした。私もその時代だったら、日本人に多い横並びの人生で、すごく安心したと思います。でも時代は大きく変わり、今は人生の幅がとても広くなりました。
そんな時代に50代になった私は、本の出版もままならず、どんより停滞した気持ちで、その幅の底辺にいるような心境でした。よく思っていたのは、こんなこと。
「60とか65になったら、みんな引退したり、何か次の職業につく人も多いから、私がうらやましく思う人や、大企業でバリバリ働いてる人も、私と同じような気分になるかも。だから、もうちょっとしたら、みんな一緒。私もそこに混じって、ラクになれるんじゃないかな」
こういう意味で60になりたいなんて、私だけかもしれません。きっと人と比べるのが身につき、人にどう思われているか気にしすぎな人なのですね。
「人生後半をいきいきと楽しもう」という強迫観念?
また最近はさらに追い討ちをかけるように、「人生100年」と言われています。私の感想は、「全然聞いてないけど」。誰もがこの先、長い第二の人生をいきいきと始めないといけないような雰囲気です。そんな危機感の中で、私も収入とやりがいを得るために、できることを考える日々が続きました。そして自分にもできそうな整理収納アドバイザーの資格を取り、自宅セミナーなど開いてみました。
意外なことに、勇気をもってやってみると、それはとても楽しかったです。が、コロナ禍でやむなく中止にし、オンラインに切り替えてもみましたが、やはり自宅より需要も少なく、先のことは考え中です。いつかまた、やりたい気持ちではいますが。
キラキラと見える人だって葛藤や悩みはあるのかも?
こんな中途半端で、大成功でもない今ですが、「でももう、下り坂に入っているんだから」と思うと、言い訳ですが、ちょっと安心するのです。誰もがキラキラと成功しているわけではないですし、歳をとると、どんな人でも需要が落ちたり、仕事が減ったりするのが普通なのだと思います。歌手でも俳優でも、最後まで第一線なのは一握り。時代って、そうやって新陳代謝していくものなのでしょう。
また逆にキラキラ輝いた人ほど、その後、たとえば人気がなくなっていくなど、自分ではどうしようもない下り坂に対して、私達にはわからない大きな恐怖も抱えているのでは、と思うようにもなりました(ということは、なんというか、人生平等なのかも)。
そんなこんなを日々考えつつ、同世代やその上の方は「いったい気持ちをどうしているんだろう」と本やネットで探すのですが、「やっぱり正直に言いたくはない」という本音があるのか(私もです)、そういう生き方の実例や気持ちが、多くは見つかりません。たまにエッセイやツイッターなどで心情の吐露を見つけると、その正直さに心打たれることも。やはり皆さん、いろいろ考えたり、傷ついたりもあるようです。
「下り坂」を受け入れたら、「何かしたい」と前向きな芽も出てきた
が、いっぽうで不思議なのですが、「もう下り坂なんだよね」を認識できたら、そこから少し変わってきたこともありました。なぜか開き直って「やっぱり死ぬまでにやりたいことをやれたらいいな」とか、「下り坂だから、失敗するかもしれないし、芽が出ないかもしれないけど、それでも全部あきらめるんじゃなくて、何かしたいな」と思えてきたのです。お金を稼がなくてもいいのなら、最後まで、ただ社会の役に立ちたいなとも。文章を書くことも、やり残したくない、いちばん大きなことだとわかりました。
「好き」を見つけて、楽しく下っていこう
もしかしたら昔のようにいっせいに引退する時代より、すごく苦しいし、迷いに迷うけど、おもしろい時代がきているんですよね。自分の未来はまったくわかりませんけど、下り坂をベースに、何かやっていけたらと思っているところです。
お若い方も、いつかやってみたいことのとっかかりだけでも見つけておくとか、副業が許されるなら、2、3の仕事を同時にやるとか、趣味も深めておくとか、気持ちの余裕のあるうちに、いろんな幅を広げておくのは、人生を楽しく下っていきたい時に、とても支えになることだと思います。
●青木美詠子さんの生き方に関する記事、ほかにもいろいろ
◎「大きな不安を抱えながら、小さく始めたり、引き返したり」
◎「逃げ込める楽しみを持つことの大切さ」