【映画好きの3本/樋口直哉さん】実際に作ってみたくなる、料理が傑出した「おいしい映画」
各界の映画好き著名人がそれぞれの視点でおすすめの映画3本を紹介する「映画好きの3本」。今回は料理家・作家の樋口直哉さんのおすすめをご紹介します。
料理を作りたくなる! そして社会性ある「おいしい映画」とは。
伺った樋口直哉さんのキッチンにはおいしい匂いがあふれていました。
「ラタトゥイユをまた作ってみています。『レミーのおいしいレストラン』のストーリーに大きな役割を果たす料理です」
天才的な料理センスをもつネズミが、人間との接点をもってパリの人気レストランで腕を振るうことになるアニメーション映画が、1本目のおすすめ。
「料理がキーとなる映画は半ば無意識に、ほぼ全て観ています。ただ僕が『おいしい映画』だと思うのは、まず実際に料理を作ってみたくなる映画。料理シーンがきちっと描かれているのが重要で、必ず料理の監修者をチェックします」
『レミー……』はアメリカ料理界の寵児、トーマス・ケラーが担当。
「モダンで構築的な料理の得意なシェフです。監督たちも彼のレストランに数日入って修業、研究をしたのだとか。厨房シーンも素晴らしい。そもそもネズミというキッチンにいてはならない存在が、おいしい料理をつくるという逆説的な設定もワクワクするし、シンプルでわかりやすくよくできてる話だなあって」
1_『レミーのおいしいレストラン』
シェフになりたいと夢見るネズミ、レミーは家族や仲間たちとはぐれてしまいパリの憧れのシェフ、グストーの店に流れ着く。亡きグストーの息子だが料理経験のないリングイニと出会い、彼を助けて料理をつくることに。そのおいしさは評判になり店は流行るのだが……。監督/ブラッド・バード 2007年
ディズニープラスで配信中 © 2026 Disney/Pixar
一本の映画の料理に進化のストーリーがあるのも見逃せないと樋口さん。
「もともとミッシェル・ゲラールという伝説的フランス人シェフの『バヤルディ風コンフィ』という人気料理があり、それをケラーがこの映画で進化させレミー流のラタトゥイユに仕立てたんです」
映画の豊かな背景を知るとまた料理が生き生きと見えます。さらに料理への理解というところで差がでるようで。
「料理シーンが飛び抜けてきれいに撮られているのが『大統領の料理人』。シューファルシ、サントノーレ……美しいだけでもなく全皿が魅力的。監修はジェラール・ベッソンというクラシックの王様のようなシェフです。主人公はミッテラン大統領付きの料理人を務めた女性シェフがモデル。大統領はモダンな料理ではなく、家庭料理が食べたいと願うんです。作り手と食べ手の関係がきちんと描かれているからこそ、ぐっとくる」
2_『大統領の料理人』
垂涎の料理が登場、ストーリーと料理の力が拮抗したグルメ映画2本の後に挙げられた作品は、少しイレギュラーで。
「もともと料理というのは社会的なもので、僕もその周辺で仕事をしたいと願っているのですが『ファウンダー』はグルメと対極にある世界を描き食べ物をとても社会的に取り扱っていて興味深い! 主人公レイ・クロックは『ザ・パワー・オブ・ポジティブシンキング』という自己啓発レコードに頼りますが、トランプの愛読書もこれ。今観ると示唆的です」
クロックの著を基とする話。彼はファウンダーを名乗り、マクドナルド兄弟がつくったチェーンを乗っとろうとします。
「演技、脚本、演出……作品性も高いですね。結局クロックも幸せかどうかわからなくて……。鏡を見るシーンが多いのがまた象徴的。映画はマクドナルドのハンバーガーがアメリカ社会を映すという側面も表現しています」
頂いたラタトゥイユ、特別な味でした。
3_『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』
PROFILE
樋口直哉/ひぐち・なおや
料理家・作家
2005年『さよなら、アメリカ』で群像新人賞を受賞し作家デビュー。料理家としてはNHK『激突メシあがれ』等へ出演、著作には『もっとおいしく作れたら』(マガジンハウス)、『日本の定番料理10の謎』(NHK出版)ほかがある。
『クウネル』2026年11月号掲載
写真/玉井俊行、取材・文/原 千香子
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