白洲正子が少女時代にお月見を楽しみ、デヴィッド・ボウイの心を震わせた庭。モダンアートとしての美しさも見どころ!【後編】
枯山水や回遊式庭園……京都にはたくさんの名園があります。編集者・三枝克之さんのガイドで、文人墨客が想いを巡らせた庭へご案内します。
文人墨客が愛でた京都の名園を訪ねて。四季折々で移り変わる表情や枯山水の自然を味わう庭の愉しみ方。【前編】からの続きです。
教えてくれた人
PROFILE
三枝克之/みえだ・かつゆき
東京のレコード会社、京都の出版社勤務を経て、編集者・著述家に。2003年より沖縄在住。企画編集した本に『空の名前』(KADOKAWA)など。3月に最新著書『台湾& 沖縄 チュラネシアへの旅』(リトルモア)を発売。
白洲正子が愛おしんだ庭。
白洲の著書は他にも京都の庭の楽しみ方を教えてくれます。たとえば『私の古寺巡礼』の「平等院のあけぼの」に見る時間帯へのこだわり。
〈宇治の平等院は、日の出の時が一番美しい。そう聞いた瞬間、何か心に感ずるものがあった。〉と、彼女は何度も夜明け前の宇治を訪れますが、曇天で願いは叶わず。ようやく迎えたその朝の喜びをこのように描きました。
〈鳳凰堂は常でも水上に浮んで見えるが、この時ばかりは水から離れて、蜃気楼のように宙にたゆたい、終始ゆれ動いているのだった。それはもはや「極楽浄土」ではなく、聖衆が来迎する瞬間の光景だ。〉
平等院は藤原頼通(ふじわらのよりみち)が浄土世界の具現化を試みた、平安時代を代表する浄土庭園。その真髄に迫る文章です。
平等院
1052年、藤原頼通により開かれた世界遺産の寺院。 庭園は、鳳凰堂や阿字池、宇治川、対岸の山々が一体となった造り。浄土式庭園と呼ばれ、平安時代の貴族が求めた極楽浄土の光景を具現化している。画像提供/平等院
住:宇治市宇治蓮華116
【拝観時間 (庭園)】8:45~17:30(17:15受付終了)
【拝観料】大 人700円、中高生400円、小学生300円
※鳳凰堂などはHPをご覧ください。
https://www.byodoin.or.jp
また白洲は同じ『私の古寺巡礼』で、大覚寺の大沢池(おおさわのいけ)についても記しています。大沢池は平安時代初期に嵯峨天皇が離宮・嵯峨院(現在の大覚寺)の庭園として、中国の洞庭湖(どうていこ)を模して造った日本最古の人工庭池。古来、中秋には観月の舟遊びが行われました。
白洲も少女時代に母と一緒にここで月見を楽しんだことがあり、その情景を述懐した後、〈その後、大人になってから、私は度々お月見に行ったが、二度とあのような気分は味わえない。月にも花にも紅葉にも、一生に一度という瞬間があることを、私はこの頃になって身にしみて感じている。〉と続けます。
一期一会、それは庭巡りでも心に留めておきたいことです。
大覚寺
平安初期に嵯峨天皇の離宮として建立された、弘法大師空海を宗祖とする真言宗大覚寺派の本山。境内の東に広がる名勝・大沢池は、舟を浮かべて景色を楽しむ池泉舟遊式庭園で、日本最古の人工庭園。
住:京都市右京区嵯峨大沢町4
【参拝時間】9:00~17:00(16:30受付終了)
【参拝料】大沢池エリア:大人500円、小中高生100円 お堂エリア:大人800円、小中高生400円
https://www.daikakuji.or.jp
『私の古寺巡礼』
白洲正子
白洲が近畿の古寺を巡って綴った紀行文13篇を収録。「博識が体験や感覚を通して叡智に昇華する。それが白洲作品の醍醐味かも」。講談社文芸文庫
京都の庭のもう一つの魅力、モダンアートとしての美。
一方で、不変性もまた京都の庭の魅力の一つです。西賀茂に佇む正伝寺の庭を、立原正秋(たちはらまさあき)はエッセイ集 『日本の庭』でこう評します。
〈帰りに何年ぶりかで正伝寺にたちよったら、この寺はすこしもかわっていなかった。解釈を強要しないし、またこちらがどのように解釈してもよい、そんな庭で、眺めている方が妙に安堵(あんど)できるつくりである。〉
正伝寺
鎌倉時代に創建され、本堂は伏見城から移築された国の重要文化財。江戸初期に作庭された枯山水庭園は「獅子の児渡し庭園」と呼ばれ、サツキの刈り込みが7・5・3に配列され、借景に比叡山を望む。
住:京都市北区西賀茂北鎮守庵町72
【拝観時間】9:00~17:00
【拝観料】大人500円、中学生300円、小学生200円
https://shodenji-kyoto.jp
正伝寺の庭は小堀遠州作と伝わる、白砂とサツキの刈込のみで構成された枯山水庭園です。庭の後方には借景の比叡山。僕も何度か訪れていますが、庭と借景が奏でる変わらぬハーモニーに心落ち着きます。デヴィッド・ボウイが愛した庭としても有名です。
『日本の庭』
立原正秋
独自の美学で日本の庭園や作庭家を論じた批評的エッセイ。「歯に衣着せぬ見解にドキドキしつつも、その造詣の深さには唸らされます」。新潮文庫
東福寺
九條道家が創建した臨済宗東福寺派の大本山。国指定文化財の枯山水庭園「八相の庭」は昭和の作庭家・重森三玲によるもの。方丈を囲む4つの庭で構成され、切石を並べた市松模様の北庭が有名。
住:京都市東山区本町15-778
【拝観時間】9:00~16:00 ※季節やエリアによって30分前後します。
【拝観料】本坊庭園(方丈)大人500円、通天橋・開山堂 大人600円、共通拝観券大人1,000円
https://tofukuji.jp
最後は昭和の名庭として名高い東福寺本坊庭園です。重森三玲による昭和 14 年の作庭。イサム・ノグチが「日本のモンドリアン」と評した、 蘚苔(せんたい)と切石と白砂で組んだ市松模様の枯山水が有名です。『庭を見る心得』で作庭家自身が振り返ります。
〈庭開きの開催当日、私は砂紋まで自分で入れて来客を待っていた。その瞬間に紅葉した楓(かえで)の葉が数枚、市松の庭に落ちてきた。(中略)今なおその時の美しさが眼底に残っている。〉
そしてこのように続けます。
〈庭における瞬間の美、それはその時を得てのみ咲く花である。(中略)そしてその時を得ることのできる庭そのものは、実は永遠性をもっている。永遠なものの中の一瞬である。〉
庭とは、永遠の美と一瞬の美が交錯 する、そんな場所かもしれません。
『重森三玲 庭を見る心得』
重森三玲
作庭家としての重森の庭園論をコンパ クトにまとめた1冊。「庭の眺め方だ けではなく、庭を作る楽しさにも触れられるのは重森ならでは」。平凡社
『クウネル』2026年9月号掲載
写真/わたなべよしこ、福森クニヒロ、文 /三枝克之、編集/矢沢美香
SHARE
『クウネル』NO.140掲載
旅を深める本76冊と歩く、京都。
- 発売日 : 2026年7月17日
- 価格 : 1,080円 (税込)