都心から離れた場所で、四季の手仕事や食を楽しむ暮らしー料理家・『ties』主宰 遠藤千恵さん【住まいと暮らしvol.66】

部屋やごはん、お気に入りの道具たちを本人撮影の写真で見せていただき、バトンを繋いでいくリレー連載。前回の小林明子さんのバトンを受けてご登場いただくのは、料理家で「ties」を主宰する遠藤千恵さんです。

遠藤さんの暮らしのルール

1)そのとき、その場所で感じられる自然を存分に楽しむ
2)自然のなかで循環するものを大切に使う
3)自分でできることは自分で。人生をサバイブする力を持つ

9年前に都心から、距離的にも周囲の環境的にも、都会と田舎の真ん中に位置する横浜市緑区に引っ越ししたという、『ties』を主宰する料理家の遠藤千恵さん。

「住まいからアトリエまでは徒歩30秒。アトリエの窓からは自宅の庭や、大家さんの敷地の緑、樹齢100年の桜が見え、視界の先にいつも四季を感じられるところが住みつづけている理由のひとつ。住まいもアトリエも築50年近い物件を、職人さんと自分の手でリノベーションして使っています」

今夏から庭の一部を菜園に。「近くの農家さんに教わりながら。トマトやハーブなどを始めました」

心地よいもの、愛しいものと長く付き合っていきたいのだとか。

「気がつけば、日常的に触れるものの多くが作り手が分かるものや譲り受けたものなのは、その感覚を頼りにしているからかもしれません。今の住まいは収納スペースが多いので、ものはほぼ定位置に収納しています。日々目に入るのが、本当に気に入ったもの数点と窓からの光と緑、というところが気に入っています」

暮らす地域や土地の自然との関わりについて意識するようになってきたという遠藤さん。今年から始めた畑では、在来種の種を植えるなど、畑仕事を楽しんでいるそう。

「仕事柄、各地の生産者さんを訪ねる機会が多いですが、自分で手足を動かしてみて初めてわかることがたくさんあって。畑で見聞きしてきたことが腑に落ちることが多々あります」

アトリエのテーブルとドアは、建築家の納谷明さんに希望を伝えて、デザインしてもらったもの。

春には甘夏の花をジャムに、夏は畑仕事、秋は柿で柿酢、冬は甘夏でマーマレードと畑の冬野菜と、季節ごとに庭と食卓が繫がる関わりが持てたことが、とてもうれしいと語る遠藤さん。

「今後は都会と田舎の間のこの場所で、自分たちもその一部となって、自然として気持ちよく生きていけるか、日々おもしろがりながらやっていきたいです。そのなかで、変わらずに暮らしの中心に食を据えていきたいですね」

季節の手仕事はライフワークでもあり、伝えていきたいことのひとつ。

職業柄、器には目がないという遠藤さん。青は沖縄の紺野乃芙子さん、茶色は友人から譲り受けたもの。「最近は、自分の料理とも合う、プリミティブな力強さを感じるものを特に好んで使っています」

照明は、器と食のコラボレーションイベントでも何度かご一緒しているという、笠間の船串篤司さんのもの。「佇まいの美しさに惹かれ、都立大学のギャラリー noie extentで購入しました」

水回りは業務用のものが多いので、目の先に心が和むものを置いて癒されているそう。「コンポートや食器類は、仕事やプライベートでご縁をいただいた、知り合いの作家さんのものがほとんど」

夏は梅仕事、冬は味噌仕込と、季節ごとの台所の手しごとを行う「手しごとの会」を始めて、来年で13年目。「自然の流れに沿って、日々の食事の土台を作ることの大切さと共に、集って手と口を動かしながらコミュニケーションが生まれる、かつての「井戸端」のような場としてあり続けたいと思っています」

 

秋は庭にある柿の木から採れた柿で、柿酢作り。「米酢よりもまろやかで、サラダや和物にはもっぱら柿酢を使っています」

仕事をしているとき以外は明るすぎない灯りが好きだという遠藤さん。食卓にはキャンドルを灯して。

玄関の壁には、飛騨古川の種取り農家「SOYA畦畑」さんが送ってくれたという雑穀をスワッグ代わりに飾って。

壁はすべて遠藤さん自身がペイント。「COAT COLORの小林明子さんに調色してもらいました。塗りムラも光が当たるとニュアンスが出ていい雰囲気に。この壁面は特に美しいので、目につくところには物を置かず、壁がインテリア代わりになっています」

「トイレは思いっきり好きな色にしたら?」とアドバイスをもらい、ラベンダー色に。「吸湿吸臭効果のある塗料のおかげで、いつも空気が気持ちいいです」

香りは暮らしに欠かせないもののひとつ。「強い香りは苦手ですが、自然からの香りは好き。飛騨古川の農家『SOYA畦畑』オリジナルの森の黒文字の蒸留水、『noi』のアロマオイルも黒文字ベース、『WONDER FULL LIFE』のOlaibiさんをイメージして作られたオイルは唯一無二の香りで、自分がその時に必要な力を後押ししてくれるような、特別なオイルです」

冬にたわわにつく実は、一部はマーマレードにして、それ以外は柑橘の取れない地域に住む生産者の方やご近所さんにおすそわけ。「マーマレードのレシピは明治生まれの祖母から受け継いだもので、祖母の家にも立派な夏みかんの木がありました。庭の柑橘で作るマーマレードは、私にとっては祖母との大切な繋がりでもあります」

同じ甘夏の木に春になると咲く真っ白な花は、アロマオイルのネロリとよく似た上品な香り。毎年咲き切る前の花を摘んでジャムとシロップに。「マーマレードと並び、「ties」の定番かつ人気アイテム。花びらとおしべとめしべをピンセットで分ける作業は、骨が折れますが、それも苦にならないほど、特別な香りです」

種は在来種の種を扱う、静岡の光郷城 畑懐(こうごうせい はふう)さんから。「考え方にもとても共感しています。未来に残したい種屋さんです」

profile

遠藤千恵/えんどうちえ

料理家、ties主宰。東京生まれ。2015年より拠点を、都内から車で40分の豊かな自然が残る“都会と田舎の間のトカイナカ”な中山(横浜市)に移す。 “身土不二”(人と大地は繋がっている)の考えを大切に、四季折々の野菜が持つ本質的なおいしさと美しさを活かしたケータリング、メニュー制作を中心に活動する。2016年より二十四節気に沿った台所の手仕事を共に行う「手しごとの会」を主宰。
Instagram@ties.chie

遠藤さんがバトンを渡すのは、長野県北杜市でリアルな循環型生活を実践する「ソイルデザイン」の四井千里さん。「暮らしの中に循環する仕組みを作ることで、その土地の自然を活用しながら還し、より良くしていく暮らしを地道に実直に、そして楽しまれている千里さん。その暮らし方には、知恵とハッとするような自然の美しさに溢れています」と遠藤さん。遠藤さんの暮らしは、12月中旬に公開予定です。どうぞお楽しみに。

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