「旅先の心細さが感受性を強くしてくれる」堀川波さん12年ぶりの海外旅エッセイより〈旅の楽しみ編〉
イラストレーター、手仕事作家の堀川波さん。長い子育て期を卒業し、50代になり、仕事も暮らしも新しいゾーンに入ったといいます。そんな堀川さんが、手仕事仲間に誘われてヨーロッパ3週間の旅に。素敵な人や風景をスケッチしながら歩く、12年ぶりの海外旅。帰国後はそのワクワクを『手仕事をめぐる大人旅ノート』という本にまとめました。
※本企画は、堀川波さん著『手仕事をめぐる大人旅ノート』(大和書房)からシリーズ2回でご紹介します。
InstagramのDMが旅への扉だった
今回の旅のきっかけは、ロンドンにある『LOOP(ループ)』というかわいい毛糸屋さんでワークショップをするお話をいただいたことでした。ある日、私のインスタグラムのサシコステッチを見たLOOPの店主スーザンから、ダイレクトメッセージが届いたのです。そしてあれよあれよという間に開催が決定しました。
ワークショップでの通訳は友人にお願いし、私はサシコステッチの刺しゅうのやり方をレクチャーしました。お客様は、日本のお客様とだいたい同じで、子育てを終えた50代の同世代の方が多かったように思います。
でも、日本と違うなと思ったのは、お客さん同士が自分のことや家族の話、手仕事の話をしながらすぐに和気あいあいとしたムードになること。日本の人は、仲良くなるのに時間がかかりますし、はじめて会った人に自分や家族のことをあまり話したがらないものですが、ロンドンの人はワークショップの間、集中して手仕事を楽しみながらも、おしゃべりに花を咲かせていました。
そして、かっこいいなと思ったのは、終わりの時間がくるとさらりと切り替えて去って行くところ。人間関係がさっぱりしていて、自分の時間を大切にしていることがわかりました。
旅の醍醐味は自分とのおしゃべり
旅先でひとりになると、自分の心がいろんなことを話しかけてきます。電車に乗っているとき、歩いているとき、カフェで景色を見ているとき。
「あのおばあさんの洋服、かわいいね」「あの窓の形、素敵だよ」「この色の組み合わせ、いいね」などど、どんどん教えてくれるのです。そのたびに、見たことのない美しさにハッとしたり、あわててメモをしたり。心とからだが動いて満たされていくのを感じます。自分が癒されるのです。
心細くて不安なとき、私の心はさらにおしゃべりになります。ロンドンで初めてひとりでバスに乗ったときは、降りる駅のアナウンスを聞き取れる自信がないので、7歳のころみたいに降りる駅を指折り数えていました。あと4つで降りなきゃ!と52歳にしてドキドキ。初めての冒険です。ものすごく久しぶりの感情にワクワクしました。「心細さ」というものを、青春時代はいつも抱えていたような気がします。この心細さが感受性を強くするカギだったのだなと、今回の旅で思いました。
心細さのハードルは、意外とひょいと乗り越えられるもの。行きのバスではあんなに不安だったのに、帰りのバスでは安心して居眠りしてましたから。
※本稿は『手仕事をめぐる大人旅ノート 』(大和書房)より一部を抜粋・編集したものです。
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プレミアムメンバー
堀川 波
おしゃれや、暮らしの工夫などに綴ったイラストエッセイが好評。手仕事のワークショップも開催。『48歳からの毎日を楽しくするおしゃれ』(エクスナレッジ)、『籐で作るアクセサリーと小物』(誠文堂新光社)など著書多数。
https://www.dottodot-works.com/
Instagram:@horikawa._.nami