フランス流恋愛観のリアル。マクロン大統領が25歳年上の妻と結婚、恋愛の多様化はますます加速

自由恋愛大国というイメージの濃いフランス。マクロン大統領夫妻の存在により「フランス人の恋愛に年齢は関係ない」というイメージはより濃くなりましたが、実際はどうなのでしょう。

パートナーシップの形は様々、アムールの国フランス。

エマニュエル・マクロン(46歳)& ブリジット・マクロン(71歳)

2人が恋に落ちたのは、エマニュエル・マクロン氏が16歳の時。当時ブリジットは、彼が通う高校の教師で夫と子どもを持つ身。その後多くの試練を乗り越えながら愛を育み、エマニュエル29歳、ブリジット53歳の時に結婚。10年後にエマニュエルが大統領になったことで、2人の年の差が話題になった。

写真/アフロ

自由恋愛大国フランス。アムールの国フランス………広く人口に膾炙するこうしたイメージに異論を唱える人は少ないだろう。

サルトルとボーヴォワールの有名なユニオン・リーブル(結婚をしない自由な恋愛関係)は今や大昔の話だけれど、ジャーナリストから愛人の所在について尋ねられた故ミッテラン元大統領が、「で、それが何か?」と涼しい顔で答えたこと、および、「そりゃそうだよね」と大半の国民がその答えに全面的に納得したエピソードを記憶している方も多いかと思う。

もう少し近いところでは、1999年に成立したパックス(PACS)。性別にかかわらず、カップルが共同生活を営み、婚姻と変わらぬベネフィットを取得できるパートナーシップ制度だが、これを選ぶ人は、今や結婚する人とほぼ同数だという。

結婚、パックス、あるいはユニオン・リーブルに限らず、けれど離婚やパックス解消という形で恋愛関係に終止符を打つ人もとても多い。そして、終わった恋愛の後には新しい恋愛が待っている。子どもがいようが、高齢だろうが、それが新しい恋愛に踏み出す妨げにはなることも少ない。かくしてフランスでは、様々なパートナーシップの形があり、生まれては消える恋愛関係の結果であるパッチワークファミリーもごく普通の風景だ。幼稚園児同士の会話が、すでに「僕の半分の妹は」「私の半分のお兄ちゃんは」などといった具合。半分の、とは、親のどちらかが違う兄弟という意味だ。

そんなフランスではあるが、マクロン大統領が初めて大臣になってその名が知られるようになった時(2014年)、25歳という夫妻の年齢差はそれなりに話題になった。話題になるということは、やはりそれが「珍しい」からであり、またそこに従来つきまとうイメージが必ずしも「ポジティブでない」からである。

年若い男性をかどわかそう(!)としたり、愛したりする女性(40歳以上)のことを英語由来の「クーガー」という表現で呼ぶが、これは決して褒め言葉ではない。それは「痛く」て、「えげつなく」て、「獲物を襲うクーガーみたい」。口に出さずとも、そんなイメージを抱く人は、自由恋愛大国フランスですら少なくなかったのだ。だが、そうしたハンディを覆すかのように、マクロンが大統領になった頃までには、夫妻のイメージは総じてポジティブなものとして捉えられるようになり、とりわけ多くの女性たちの賞賛や共感を得るようになったのである。

写真/アフロ

マクロン夫妻は、自由な恋愛観の象徴的存在。

折しもそれは、フランスにおいてもMeTooの機運が高まり始めた時期と重なる。自由恋愛大国といっても、従来のそれはやはり「男性目線」「男性主導」の呪縛からなかなか自由になれないでいた。冒頭であげたボーヴォワールの「第二の性」から何十年という年月が流れたにもかかわらず、地位や富を得た中高年男性の多くが若い妻や恋人を連れ歩くことにはなんの疑問も抱かない一方で、年長の女性を「クーガー」と揶揄するような社会は、なかなか変われないでいたのだ。

自分の心と体に正直に。終わった愛とは潔く訣別し、希望を持って新たな愛に飛び込む。そんな彼らの大らかで毎回真剣勝負の恋愛への姿勢に、時に感心し、時にたじろいできた私だが、しかしその陰には暴力をも伴う支配や抑圧に苦しみ、潰される女性たちがたくさんいたのだ。そのことを、今の私たちは知っている。

思えば同性婚の合法化も、欧州他国に比べてフランスは決して早くはなかった(一番乗りのオランダが2001年なのに対し、フランスは2013年)。異性カップルの利用者が大きく上回るパックスも、もともとは婚姻できない同性カップルの法的保護を念頭に設営された制度だったのだ。恋愛大国でありながら、保守的な結婚観や家庭観、あるいは女性差別的な恋愛観という側面を根強く根深く併せ持つフランス。それを一つ、また一つ、軌道修正しながらようやく現在の恋愛観に到達した。その一角に、マクロン夫妻という象徴的なカップルを位置づけてみると、なかなかいい景色だな、と思えてくるのである。

写真/アフロ

PROFILE

長坂道子/ながさか・みちこ

エッセイスト。1961年生まれ。著書に『パリ妄想食堂』、『50才からが“いよいよ”モテるらしい神話「フランス女」』など。現在はチューリッヒとパリの二拠点生活。note.com/0787089993

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