藤原淳さん パリのルイ・ヴィトンで広報として17年/後編。自由に生きるには「空気を読まないこと」も必要です
ルイ・ヴィトンのパリ本社に17年間勤務してPRのトップをつとめ、業界内外で「もっともパリジェンヌな日本人」と称された藤原淳さん。クウネルの連載で大好評だった著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』に描かれた「すっぴん=ありのままの自分」で爽快に生きるパリジェンヌたちの姿は、幅広い世代の女性たちから憧れを呼んでいます。先日、一時帰国された藤原さんに伺った、『パリのルイ・ヴィトンで広報として17年/前編。「頑張り屋の日本人」を辞めたらラクになりました』の後編をお届けします。
自分が自由になれば他人にも寛容になれる
仕事で我慢するのをやめ、離婚も経験し、「自由な生き方」を歩み始めた藤原さん。当時30代半ばの自身が仕事や人生に対してポジティブになれたのは、フランス式の考え方がベースにあったからだと振り返ります。
「その年齢で独身でも、周りから結婚しろとは言われないしそういうプレッシャーも全くない、その環境はとても心地よかったです。"女性はこうあるべき"という固定概念はなく、"自分はこうありたい"と思う姿が正解だという考え方。実際に"自分が良ければそれでいい"というマインドになると、他人のことをとやかく言わなくなるんですよね、不思議なことに」
それはファッションについても同じことで、着たい服を着て「誰に何と言われても構わない」と堂々としていれば、周りも何も言わなくなるのだとか。
「本にも書きましたが、フランスにはファッションマニュアルのようなものはなく、"自分がこうありたいからこれを着る"というのがおしゃれに対するスタンス。人からどう見られたいかを重視して服を選ばないという考え方はとても楽です」
とはいえ、おしゃれについて暗黙のルールは存在すると言います。
「フランスでは年齢や立場にふさわしい"立ち居振る舞い"や"美しさ"が良いとされていて、"若く見える""かわいい"は、全くもてはやされません。入社当時、Tシャツと穴あきデニムのようなカジュアルスタイルをしていたら、上司から"大学生みたいだ"と言われて。それは"若々しい"という意味ではなく、批判なんです。それからは年上に見られるよう努力しました」
ときには空気を読まないことも必要です
パリジェンヌ的な「自分らしい生き方」に心地よさを感じた藤原さんに、日本の女性の姿はどう映っているのでしょうか。
「日本人の良いところは、自分より相手のことを思う気遣いや心配り、周囲の空気を読むところだと思います。フランスのように個人主義が強く空気を読まない人たちの中で暮らしていると、そうした特徴がとても素晴らしいなと。ただ、それが行き過ぎると、自分を犠牲にして損をすることが出てきてしまう。日本の女性は強くて頑張り屋さんだから、困難も乗り越えようと努力しすぎて辛くなってしまう人が多いように見えるんですよね」
周りとの調和を大切にするあまり空気を読み過ぎたり、かつて自身がそうであったように、自己犠牲を払うことが決して良いわけではないということを、フランスで大いに感じているのだそう。
「フランスは革命を起こした国なので、手に入れるには主張するのは当たり前。しょっちゅうデモやストがあるのは困りものですが(笑)。例えば日本なら、好きな服を着たいけれど母親だから派手な服装は避けようとか、忙しいから冷凍食品に頼りたいけれど自分で料理しなくてはとか、それに自分がモヤモヤしていたら"本当はこうしたい"と言葉にしてみた方がいいと思います」
周りを気にせず空気を読まないフランス人のスタイルも、時には有効なのではと藤原さん。まずは身近な人に自分の葛藤を伝えれば「私もそれ言いたかった」「やりたいようにやっていい」と理解されることはたくさんあるはずと言います。
「我が道を行くパリジェンヌたちも、ひと昔前の世代の方たちが頑張って声をあげてきたからこそ、今のようになれたんですよね。最初の一歩は勇気が必要で、私もいまだに上手に手を抜けないところもあるんですが、自分で意識を変えていかないと何も変わらないと思うようになりました」
外野の声は気にせず、人生は「自分優先」で
フランスに住んで25年、「人生の半分以上がフランス生活になりました」と笑う藤原さん。長い間の海外生活で自分を支えていたものとは何だったのでしょうか。
「帰らないぞという意地もあったかもしれませんが、究極的に言えば、生き方が自分に合っていると思えたことかも。決してキラキラしたものばかりではないパリで、私にとっては人生で一番幸せを感じられるもの(生き方)が見つかった、そういうことだと思います。時間はかかってしまいましたが(笑)」
紆余曲折を経て自分らしい生き方を見つけ、自由の国・フランスで「もっともパリジェンヌな日本人」と言われるようになった藤原さんが、クウネル読者のみなさんに伝えたいことを伺いました。
「自分は母親だから、妻だから、娘だから…そういったものを取り払って、本当に自分がやりたいことは何なのか一度ぜひ考えてみて下さい。大きなことではなくても、着たい服を着る、観劇や1人カラオケもあるかもしれませんね。やりやすいとこから始めてみると、少しずつ生き方が変わってくるはず。絶対に口を出してきたり、妬みをいう人はいますが、自分の人生です。気にせず自分を優先させて、やりたいことをやっちゃいましょう!」
藤原淳
ラグジュアリーブランド・マイスター。著作家(パリ在住)。
東京生まれ。3~6歳の間イギリスで育つ。聖心女子大学国際交流学科卒業。1999年、歴代最年少のフランス政府給費留学生としてパリ政治学院に入学。卒業後、在仏日本国大使館の広報を担当したのち、ルイ・ヴィトンのパリ本社にPRとして入社。ディレクターを経て、2021年に退社し著作家へ。著書に「Mes rituels japonais (日本人である私の生活習慣) 」(2022)など。
藤原さんがパリ生活で出会った多くのパリジェンヌの実例をもとに、「自分らしさ」を貫く生き方を提案するエッセイ。『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)256P 1,540円
出版社HP
取材/文・松永加奈