おしゃれミューズの小林麻美さんの人気連載。今回のテーマはアート。注目のアーティスト舘鼻則孝さんと対談が実現しました。(第一弾、第二弾はこちら)
今回は、私が現代アートに興味を持つきっかけになったアーティストの舘鼻則孝さんに、南青山のアトリエでお話をうかがいました。
小林 藝大の卒業制作で作ったヒールレスシューズが代表作ですが、「履けるアート」って、なかなかないですよね。
舘鼻 日本の美術は工芸からきているのですが、工芸は用途が機能してこそ価値があると思ったんです。それで「機能を満たした芸術品」として作ることが、僕には重要だった。それも手仕事によって成り立っていることが。日本の伝統的な芸術文化やファッションを取り入れたクリエーションを世界に発信しようと。そのきっかけになったのがヒールレスシューズです。
小林 舘鼻さんの作品はアートであり、ファッションでもあるんですね。
舘鼻 ファッションって自己表現の手段であり、自分を高めるコミュニケーションツールだと思うんですよね。海外のある顧客の女性は、「自分が1歩前に出る勇気を得るために」僕の靴が必要だと言ってくれています。
小林 自分にとっての美とは何ですか?
舘鼻 山も海も近い鎌倉で育ち自然の中で過ごしたことが、自分の土台を築いていると思います。受験生の頃は植物を描いたり自然物を粘土で塑造したりして、自然界に成り立つ構造を学びました。美しい形の基本は自然の中にあるということが、自分の美の尺度になっているんじゃないかと思います。
小林 舘鼻さんの作品は、妙に色っぽくて、ちょっと危うい感じがするのはなぜ? こんなにいい人なのに(笑)。
舘鼻 いい意味で不健全なところは魅力になりますよね。ヒールレスシューズは花魁の高下駄から着想を得たのですが、そういうものに自分は魅かれて。
小林 抑圧されたものに魅かれる、その発想が普通と違う。私も健全なものと対極にあるもの、陰と陽なら陰に魅かれる。だから、舘鼻さんの作品を観ると、好き!と直感的に思うんですね。
舘鼻則孝/たてはなのりたか
1985年生まれ。2010年、東京藝術大学美術学部卒業。アートにとどまらず幅広いジャンルで活躍。作品がメトロポリタン美術館などに収蔵されている。
小林麻美/こばやしあさみ
高1から雑誌やCMのモデルを始め、高3終盤に「小林麻美」で歌手デビュー。憧れのファッションリーダーとして活躍の後、結婚を機に引退。昨年、25年ぶりに本誌に登場し話題に。以来、連載が大人気。
『ku:nel』2018年9月号掲載
文・写真 小林麻美/取材協力 田辺良太、KOSAKU KANECHIKA