目利きデザイナーが味わい深い”木の器”を選ぶ理由【デザイナー・山中とみこさん】
同じ料理でも器が変われば味わいも違って感じられるもの。『CHICU +CHICU5/31(ちくちくさんじゅういちぶんのご)』のデザイナー・山中とみこさんが、デザイナーならではの目利きでセレクトした焼き物や作家をご紹介していただきました。
PROFILE
山中とみこ/やまなかとみこ
2003年に自身のレーベルをスタート。埼玉県所沢市でギャラリー&ショップ『山中倉庫。。』を不定期でオープン。現在は所沢と茅ヶ崎の2拠点暮らし。近著に初のソーイング本『山中とみこの大人なふだん着』(文化出版局)。
暮らしになじむ木の器
デザイナーとして活動する前の40代は、古道具店を営んでいた山中とみこさん。自身がデザインする服と同じように、器の選び方にも自分のスタイルをもっていて、焼き物や作家についても詳しい目利きです。
「器は学生の頃から好きで。青森から上京してお金もなかったので、作家ものとかは買えませんでしたが、雑貨屋さんでお気に入りを見つけて、ひとつずつ集めていました。そのあと民芸の器や古道具の魅力に惹かれるように。古道具屋に通い詰めていたら、そこの店主に『自分でやってみれば?』と、気楽な感じでいわれたことがきっかけで、お店を始めました」
アンティークの買い付けに海外の蚤の市にも足を運び、器作家との出会いも広がったという山中さん。2拠点で暮らす茅ヶ崎の家では、味わいのある作家ものの木の器や蚤の市で買った古い漆器などが目を引きます。
「黒染のオーバルの器と自然な木の形を生かした器は、長いお付き合いのある木工作家、coguさんのもの。こちらの家には家族や友人が集まるので、大きめの器は出番が多く、ちらし寿司をのせたり、中に小皿を並べて前菜を盛り合わせたり。いろいろアレンジがきいて、料理がおしゃれに、豪華に見えるんですよ」
器も含めて食事を楽しむ
料理のテクニックはなくても、器の力を借りればおいしく見せる演出はできる。器も含めて食事を楽しむのが山中さんの日常です。
「素人のシンプルな料理でも見せ方を工夫するだけで『わあ、おいしそう!』ってみんなで盛り上がれる。そうするとごはんをつくるのも楽しくなるじゃないですか。だからたとえ夫婦2人だけの食事でも、忙しくて時間がない日の食事でも、器には気を使います」
この日のメニューは鮭ごはんに、キャベツとホタテのサラダ。ごはんを木肌の器に盛り、「重たくならないように」とサラダはクールなアルミ皿にのせ、季節感も取り入れた組み合わせに。
「木の器はトレーにもなるので、食器を運ぶときも便利だし、漆器のお椀のフタは小皿としても活用。どんな料理も受け止めてくれて、多様な使い方が楽しめるのが木の器のよさです」
扱いは難しくないのでしょうか? 「長時間放置してごはんがこびりついたことはありますが、使ったあとすぐに洗えば大丈夫。油じみや水気も意外と平気なので、ローストビーフやお蕎麦の盛り付けにも使います。高価な漆は気を使うかもしれませんが、私が持っている漆器は蚤の市で買った1個500円~1000円くらいのものがほとんど。安いから思い切って楽しめます」
器を選ぶ基準は、料理が映えるかどうか
器を選ぶ基準は、料理が映えるかどうか。なんとなく買ってしまったものはひとつもなく、色や素材もルールを決めているといいます。
「自分がつくる料理の目線で選ぶので、器が主張しているものは絶対に買わないですね。派手な絵付の器も持っていないし、焼き物は土もの、ガラスは透明のものだけ、と決めています。料理が引き立つことを考えると黒や白っぽい器に偏ってしまいますが、好きじゃないものは家に置きたくないんです」
あくまで主役は料理、器はデイリーに使ってこそ意味があるもの。今ある器はすべて山中さんのセンスと暮らし方を物語っています。
『クウネル』2023年7月号掲載
写真/柳原久子、取材・文、今井 恵、矢沢美香
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『クウネル』No.121掲載
料理好きな人のいつものごはん
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