家族は一番身近にいて気心が許せる存在という人もいれば、愛情がうまく表せない、気持ちがつかめないと悩む人も少なくないはず。改めて家族について考えたくなる3冊です。
村井理子さん/むらいりこ
翻訳家、エッセイスト
琵琶湖のほとりに夫、双子の息子、 愛犬ハリーと暮らす。『家族』(亜紀書房)の他、ハリーとの日々を綴った3部作、簡単料理の本も好評。
『兄の終い』で兄の死後の5日間を描いた村井理子さん。新刊『家族』では幸せになるはずだった自分の家族が、ある誤解がもとで壊れていったさまをありのままに綴りました。
「家族については、皆さん何かしら葛藤を抱えているのでは?」と村井さん。やはり家族への思いを率直に表した3冊を選んでくれました。
『シズコさん』は絵本作家の佐野洋子さんが母との葛藤を語った1冊です。
「リズムよく単刀直入に、お母さんをくさしまくっていますが、筆致に愛情があり、グイグイ読ませます」
『母』も完璧を望む母親との確執を軸に、過去をたどったエッセイ。
「本の中の青木さやかさんはきまじめで繊細。テレビのイメージとは違う一面を見て、かなりファンになりました。 母と娘の関係はむずかしく、佐野さんも青木さんも晩年にわだかまりがとけ、 死後に振り返って書くことでようやく自分の中で決着をつけた」
「寂しくもありますが、亡くなってからやっとわかることがあり、亡くならないと書けないこともあるんですね。私も父母と兄を亡くし『家族』を書くことで、距離を置いて考えられたし、悪いものは出し切った感じがしています」
一方『そうか、もう君はいないの か』は愛妻に先立たれた夫が在りし日を偲びます。
「残された夫の哀しみが胸に迫る。巻末の娘さんの手記がまたいいんです」 改めて家族について考えてみる、きっかけになる3冊です。
『クウネル』2022年7月号
取材・文/丸山貴未子