素材そのものの味わいを引き出す、洗練された家庭料理に多くのファンを持つ料理家のサルボ恭子さん。
作り置きしておくことで日々の食卓を豊かにしてくれる、ストック調味料やおそうざいのレシピをまとめた新刊『毎日おいしいびん詰め』が好評発売中です。
びん詰めレシピに込めた思いや料理人を目指すきっかけになった思い出の祖母の味についてお話を伺った前回の記事の続きをお届けします。
サルボ恭子
老舗旅館の長女として生まれ、料理家の叔母に師事したのち渡仏。パリのグランメゾンで研鑽を積み帰国、料理家として雑誌やTVなどで幅広く活躍中。現在は日本でフランス語教室を主宰する夫と自身の両親の四人暮らし。『ストウブマスターブック』(学研プラス)、『おもてなしは一品豪華主義でいい』(誠文堂新光社)、『フランス共働き家庭の2品献立』(立東舎)など著書多数。Instagram @kyokosalbot
■一流料理人たちも、ベースにあるのはそれぞれの家庭料理
――日本で料理の修行を積んだ後、フランスに行かれたんですよね。
サルボ:母の従姉妹の元で料理を叩き込まれながら、この世界で生きていくのであればフランス料理の本場に留学したいという気持ちが沸々と湧いてきて、アシスタント業と並行しながら派遣OLとして働き、渡仏資金を貯めました。フランスではホテルのグランメゾンで2年ほど働きました。
――フランスでの生活はいかがでしたか?
サルボ:現地のシェフたちと仲良くなってプライベートで集まるようになったのですが、そうするとみんな出身地の自慢話になるんです。この村のこの料理が最高とか、いやいや自分の地元の料理のほうが美味しいとか。
三つ星レストランのシェフたちが、素朴な家庭料理を持ち寄って地元や家庭の味について語り合う。それを見て、私の料理のルーツが祖母にあるように、世界中どこに行っても、それぞれの根底には、家庭料理があるんだなということに気づきました。
当時、先のことはあまり考えておらず、まずは料理の最高峰に触れてから、自分の進むべき道を決めようと思っていたのですが、フランスのグランメゾンで経験を積んだことで、私がやりたいのはやっぱり家庭料理なんだと気づき、帰国することにしました。
――サルボさんにとって思い出深い家庭の味は?
サルボ:母が作るお味噌汁とエビフライでしょうか。うちは3人兄弟なので、大好きなエビフライが食卓に出ると、今日は1人何本食べれるかなって数えたりしていた記憶があります(笑)。
料理って、体調や状況によって、美味しく感じる時もあればそうじゃない時もあったり、記憶と共により美味しく感じる味があったり…不思議ですよね。
■子供の頃の幸せな食卓の記憶を、自分の子供たちにも
――サルボ家の食卓で大事にしていることはなんですか?
サルボ:家族揃って食卓を囲むことでしょうか。父は旅館の仕事と趣味に没頭していてをしていて、私が子供の頃かなり忙しかったのですが、食事の時間だけは家に戻ってきて、家族揃って食卓を囲んでいました。母も育児と旅館の仕事で多忙でしたが、いつも食卓には様々な手料理が並んでいて、その記憶が私のベースにあるんです。
夫も「食事は家族揃って」という考えの人なのですが、仕事で夫の帰りが遅くなるので、我が家のルールは「朝食だけは家族揃って一緒に食べる」ということ。
食事の時間ってすごく素のコミュニケーションがとれる場だと思うんですね。食が進まなかったり会話が弾まなかったら子供たちの状況もわかる。昔とは違い現代は忙しいので、私が祖母や母にしてもらったように、手作りを何品もというのは難しいと思います。買ったものでも簡単なものでもいいので、家族揃って一緒に食べる。何を食べるかではなく、食卓を囲む空間と時間が大事なんじゃないでしょうか。
作り置きの調味料や惣菜が冷蔵庫にあれば、手間をかけずに料理が作れて、そのぶん長く家族と一緒にテーブルを囲むことができる。そういう意味で「日々を助ける」レシピ提供がしたいなと思ったのも、この本を出版した理由のひとつです。(インタビューは次回へ続きます)
毎日おいしいびん詰め
冷蔵庫を開けて、自家製の調味料とおそうざいのびん詰めがあると嬉しい。これさえあれば、味の要が出来ているので食事作りがぐんと楽に。時間と手間をかけないびん詰め作りを。
『毎日おいしいびん詰め』(文化出版局)
聞き手/吾妻枝里子