本誌連載『考える料理』でもおなじみの樋口直哉さんは、作家にして料理人。そんな樋口さんが「最高のトースト」について考察。エッセイを寄せてくれました。
トーストはおいしくなる秘密を知って、コツをつかめばもっと面白い!愛用の<バルミューダ ザ・トースター>を使い、樋口さんがたどり着いたベストトースト2つを発表します。
トースターの価格や性能は様々。トースターについて考える前にトーストについて理解する必要がある。パンは日にちが経つと硬くなる。ラップに包めば回避できそうだけど、実際には難しい。パンが硬くなるのは乾燥ではなく、デンプンの老化(=β化)が原因だからだ。
トースターでパンを焼き、パンの内側の温度が 60 ℃を超えると、デンプンが元の状態に戻り、やわらかさと風味がよみがえる。ご飯を温めるとふっくらするのと同じ原理だ。一方、加熱時間が長くなると水分が失われてしまい、パンがぱさついてくる。内部に水分を残しつつ表面を高温でこんがりと焼く。そこにトースターという道具の真価がある。
バルミューダのトースターは水蒸気を使うことで効率的に熱を伝え、最後に高温短時間の加熱で表面をこんがりとさせている。つまり2つの温度と熱量を巧みに使い分けているわけだ。
さて、トーストをおいしく食べるにはバターが欠かせない。塗りやすいのでマーガリン……という人もいるが、私見ではバターは塗るものではなく〈のせる〉ものだ。冷たい薄片状のバターがパンの熱で少しやわらかくなり、口のなかで溶ける。これが(今の所)僕が思っている最高のバタートーストだ。
バタートーストの次はチーズトーストモードを使った「クロックムッシュ」を紹介したい。クロックムッシュをおいしくつくるコツはホワイトソースを手作りすること。ホワイトソース作りは大変そうに思われているが、要領を掴めば手間ではない。バターで粉をよく炒めて、鍋を一度、火から外したら、冷たい牛乳を一気に加えるのがポイント。ルーを牛乳に溶かしてから火にかければだまにならない。
食パンに薄くディジョンマスタードを塗るとフランス風の味わいになる。ホワイトソースを内側に塗ったパンでハムを挟み、上にもホワイトソースを薄く塗る。溶けるタイプのチーズを振ったら、トースターへ。
クロックムッシュは中心までしっかりと熱が伝わり、表面に焦げ目がついているのが理想。バルミューダのトースターでないとこんな風には焼けない。ふつうのトースターでは熱量が足りないので、中心まで熱くしようとすると、パンやチーズの水分が蒸発してしまうからだ。実際にはトースターに任せておけるので、自分ではなにもする必要がない。
クロックムッシュは直訳すると「カリッとした紳士」という意味。上手に焼けると底がカリッとして、表面はアツアツ。いいトースターを使えば毎日、食べるパンが確実においしくなるわけだから、やはり投資する価値はある。
◆Blissful Toast 1
マイベスト バター オン トースト
●材料
厚切り食パン…1枚
バター…適宜
●作り方
1)食パンをバルミューダ ザ・トースターのトーストモードで3分トーストする。
2)少しトーストを冷ましてから、薄くスライスしたバターを全体にのせる。
◆Blissful Toast 2
とてもシンプルなクロックムッシュ
●材料
食パン(8枚切)…2枚
ハム…2枚
チーズ(グリエールなど溶けるタイプ)…適量
ディジョンマスタード…小さじ1
<ホワイトソース>
バター…20g
小麦粉…20g
牛乳…200ml
●作り方
1)鍋にバターを入れ中火にかける。バターが溶け泡立ってきたら、小麦粉を振り入れ弱火で炒める。
2)クッキーのような匂いがしてきたら火を止め、牛乳を一気に入れだまにならないよう泡立て器で混ぜる。再び中火にかけ混ぜながら、ふつふつと沸いてきたら塩胡椒(分量外)で仕上げる。
3)パンの一面にマスタードを塗り、さらにホワイトソースを塗りハムを重ねる。もう一枚の内側にもソースを塗り重ねる。
4)表面にもソースの残りを塗りチーズを削りかけ、バルミューダ ザ・トースターのチーズトーストモードで4分30秒トーストする。
バルミューダ ザ・トースター
スチームトースターの先駆けとなったバルミューダ ザ・トースターはトーストの焼き上がりの味、香り、食感を追求。今回使用した2つのモードの他に、フランスパン、クロワッサンとパンの種類に合わせておいしく焼けるモードを搭載。
予熱が不要なオーブン調理機能も使いやすく、150万台を超えるロングセラー商品になっている。カラーはどんなインテリアにも合う、ホワイト・ブラック・ベージュ・グレーの4色。2万7,940円
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お問い合わせ:バルミューダ0120-686-717
https://www.balmuda.com/jp/toaster/
樋口直哉/ひぐちなおや
作家、料理家。服部栄養専門学校卒業。フランス料理店や料理教室などで修業する。2005年『さよなら、アメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、作家としてもデビュー。料理に関する著書も多く、『新しい料理の教科書』(マガジンハウス)、『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)などが人気。最新刊は『ぼくのおいしいは3でつくる』(辰巳出版)、『低温調理の「肉の教科書」』(グラフィック社)、本誌連載をまとめ加筆した『もっとおいしく作れたら』(マガジンハウス 3月31日刊)。
『ku:nel』2022年5月号掲載
エッセイ・レシピ/樋口直哉 、 写真/永禮 賢 、編集/原 千香子