お手本にしたい向田邦子の美しい生き方4。仕事、旅、猫との暮らしや名言「独りを慎む」について
作品はもちろん、おしゃれで食通、猫と旅を愛したライフスタイルが時代を超えて愛され続けている向田邦子。貴重な写真やエピソードから、その魅力を紐解きます。
〝成熟したひとり〟像が時代を超えたロールモデルに。
35歳で実家を出て41歳で南青山のマンションの一室を購入。猫と旅を愛し生涯独身だった向田邦子さん。「当時、女性がひとりで生きることは今よりはるかに大変だったと思いますが、肩肘を張らず軽やかに、好きなもの、好きな人に囲まれた暮らしを楽しんでいらしたように思います」と、『かごしま近代文学館』の学芸員・井上育子さん。
ひとりの暮らしを語るうえで欠かせないのが、猫の存在。どんなに締め切りに追われていても、猫の取材なら喜んで引き受けていたエピソードが、エッセイ「猫自慢」に書かれています。長く共に暮らしたシャム猫の、旅先のタイで〝感電〟し、どうしてもと譲り受けたコラットのマミオにはそれぞれの名前を冠したエッセイを残したほど溺愛していました。
新たな出合いや発見を求めて、旅にも夢中になりました。
「日常でもその先にも、楽しいことを見つけるのがお上手な方だったのだと思います(井上さん)」。
好奇心の赴くまま〝好きなもの〟の枝葉を広げつつ、仕事の幅も拡充していったそのバイタリティに頭が下がります。
身軽さを楽しむ一方、どこか俯瞰でそんな自分を観察している〝成熟したひとり〟。作品から垣間見えるそんな姿が、今でも多くの女性のロールモデルとなっているのかもしれません。
モロッコにて。ケニア、チュニジア、アルジェリアなどアフリカへの旅を好んだ。
初の海外旅行はタイとカンボジア。旅先ではカラフルなサンドレス姿も。
自由の裏にある小さな覚悟を表す、向田邦子さんの言葉。
自由は、いいものです。
ひとりで暮らすのは、すばらしいものです。
でも、とても恐ろしい、目に見えない落し穴がポッカリと口をあけています。それは、行儀の悪さと自堕落です。(中略)
「独りを慎しむ」
このことばを知ったのは、その頃でした。言葉としては、前から知っていたのですが、自分が転がりかけた石だったので、はじめて知ったことばのように、心に沁みたのでしょう。誰が見ていなくても、独りでいても、慎しむべきものは慎しまなくてはいけないのです。
「独りを慎しむ」『男どき女どき』/新潮社より
PROFILE
向田邦子/むこうだ・くにこ
1929年東京生まれ。映画雑誌の記者を経てラジオ、テレビの脚本家に。エッセイスト、小説家としても数々の名作を残す。1980年には連作短編『花の名前』『かわうそ』『犬小屋』で第83回直木賞を受賞。1981年、取材中の台湾旅行で飛行機事故のため急逝。
お手本にしたい向田邦子の美しい生き方シリーズ
取材・文/吾妻枝里子、取材協力/かごしま近代文学館
SHARE
『クウネル』NO.135掲載
素敵な大人になるためにしたいこと、やめること
- 発売日 : 2025年9月20日
- 価格 : 1,080円 (税込)