「老後に友達は必要?」高齢者向け団地住まいの70代エッセイストが考える“友達のこと”
高齢者向け団地で、ひとり暮らしを満喫中の美術エッセイスト小笠原洋子さん。最低限のものしか持たず、お金をかけない暮らしぶりが注目を集めています。今回はそんな小笠原さんの暮らしをまとめたエッセイ本『財布は軽く、暮らしはシンプル。74歳、心はいつもエレガンス』(扶桑社)より、「老後に友達は必要?」というテーマについてのお話です。
70代エッセイスト小笠原洋子さんの暮らしをまとめた一冊
1日1000円の予算で生活する「ケチカロジー」の生みの親、美術エッセイストの小笠原洋子さん。
現在75歳で年金暮らし。東京郊外にある高齢者向け団地で、最小限かつお気に入りのものだけに囲まれたひとり暮らしを満喫中です。本書はそんな小笠原さんの豊かでエレガンスな暮らしをまとめたエッセイ本です。
「お金は困らないくらいあれば十分」と語る小笠原さんは、お財布にも環境にもやさしい暮らしを実践中。「1日1000円」暮らしのリアルや、センスあるもの選びの基準、さらにおひとりさまでいることの覚悟など、マチュア世代におすすめの一冊です。
今回は〈クウネル・サロン〉の読者のために、本書の中から一部記事を特別に紹介します。
※これより下の記事は『財布は軽く、暮らしはシンプル。74歳、心はいつもエレガンス』(扶桑社)からの抜粋です。
友達は、いざというときは必要。でも、あまりいらない
ひとり暮らしこそ、友達の存在が大事。昨今、増える単身の高齢者にそう呼びかけられることも増えました。ですが、私の場合は逆です。驚かれるかもしれませんが、むしろ友達とはほとんど離ればなれになりました。
それでも、心が通じ合う数少ない友達はいます。でも頻繁に会うような友達はいません。一定の距離感が大事であって、べったりする相手はいらないからです。
それに私の場合は、交際費をゼロにするということを日々のルールにしているので、自然とひとり行動をするようになっています。
友達がいないことは、究極の節約術でもあります。ひとりで自分の生活をつくり上げていく、この孤独の「ケチカロジー」こそ、交際費のゼロ化を目指す最強の方策です。もちろん私も「友達のありがたさ」を知っています。ケチカロジーなどよりずっと勝った宝物は、友達なのです。
災害時には国際的規模による“トモダチ作戦”というのもありました。そんな特殊な例でなくても、ご近所や親しい人の助けによって命を救われた例は山ほどあります。でも、その目的のために友達を大事にするというのは、本末転倒ではないでしょうか?
ひとりはさみしいと感じる人も多いと思いますが、ひとり身ほどの自由はないでしょう。65歳のとき、二度と働かないぞと決意した私は、わずかな年金ともっとわずかな貯蓄を取り崩して生計をつないできました。そして孤独な時間を得て、自由をフル活用し続けています。
なお友達付き合いを減らした後は、ひとりで遊ぶことのおもしろさや、ひとりで生きるための、少なくとも精神的な力を得たように思っています。
老後の自分を支えてくれるのは友達?
もう少し「友達」について考えてみます。
小中学生にとっては、なんといっても友達が重要ですね。しかし問題が起きやすいのもこの年齢ならでは。どうしても良好な友達付き合いをしなければ、学校生活の半分以上は成り立たない。しかし子どもだからといって、誰もが良好な関係をつくれるわけでもないようです。若者には若者の苦闘があるのです。
そして社会に出ると、組織内での友好関係が重要になります。しかし職場は学校とは異なって、働くために自ら選んだ境遇ですから、時には仕事上の人間関係問題が発生しても、多くの場合、友情より仕事が本位になるでしょう。
さて、退職後の友達はどうでしょうか。
退職して、縁が遠のき、さみしい思いをしている方々もいらっしゃるようですが、逆にしがらみから解かれてせいせいしている方も多いかもしれませんね。私の場合は後者です。思いがけず得られた清々しさでした。
そんなことはないとお思いの方でも、退職後の友達関係はゆるやかであり、積極的に友達を持つ持たないは自由という点においては納得いただけると思います。そしてあまり積極的になれない人も、少数派ながら存在することを知ってほしいと思います。
だからといって、友達をないがしろにしているわけではないのです。
私は、友達のことを考えるとき、不謹慎ながら熱中症対策としてのエアコン使用を思い浮かべます。数年前の一時期は電力不足に陥らないようにとの省エネ対策で、「28度以上の設定」推進から、近年は猛暑のため、「エアコンを使いましょう」作戦に変わり、病院に搬送された高齢者が「エアコンはあっても使っていなかった」と報道されることもしばしばでした。
しかし、私はエアコンや扇風機の風そのものが、体調を悪化させる体質で、扇風機の場合でも少し体を避けて稼働させるものの、どうしてもエアコンを使うことができないのです。
酷暑の日はそれでも報道を思い出して数分間つけました。あるいは、長時間過ごさない部屋にだけつけて、クーラーなしの部屋からありの部屋へ、時々涼みに行ったりしました。同じことがなんと「友達」にも当てはまるのです。
使わなくてもエアコンを取りつけているように、今いる友達は大事にしていると思います。しかし一日中エアコンを作動させられないように、友達も頻繁には会えないのです。どちらも大事であればこそ、逆に重荷となったり、接触しすぎるといろいろと悩むことも出てきます。
エアコンにしても交際にしても、それを抑制するのは、もしかしたら私には金銭的な制御が利きすぎているからかもしれませんね。
その証拠として、複数の仲間に加わることが重圧でありながら、不思議なことに、そのとき皆で撮った写真を見て、仰天するのも事実です。あまりに嬉しそうな顔に写っているからです。それはつくり笑いではない、心からの喜びを表しているからです。
なんだか矛盾そのものですが。そのくらい「友達」は、私にとって偉大な存在なのです。
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『財布は軽く、暮らしはシンプル。74歳、心はいつもエレガンス』掲載
写真/星 亘(扶桑社)