【歴代朝ドラヒロインに注目4】『カムカムエヴリバディ』橘 安子/『おちょやん』竹井千代のキラーフレーズは?
連続テレビ小説「通称・朝ドラ」。録画や配信による視聴が当たり前になり、夜に朝ドラを見る人も増えた昨今。自分自身の人生や社会のあり方を考えるためのきっかけを朝ドラがもたらすことも。ヒロインたちの人生から朝ドラの魅力を探ります。フリーライターの木俣冬さんにおすすめを教えていただきました。
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目 次
橘 安子/『カムカムエヴリバディ』(2021年度後期 放映)
安子が生まれた和菓子店に伝わるあんこの炊き方。心を込めて「おいしくなれ」と念じながら炊くことが家族の絆のシンボルとなった。
女の人生はあきらめないことで開けていく!
大正から昭和、平成、令和と100年に及ぶ物語を3人のヒロインが母、娘、孫としてつづっていく異色の朝ドラ。
上白石萌音さんが演じる母・安子がラジオの英語講座と出合い、英語に魅了されることがこのストーリーの骨格となりました。さまざまな運命のいたずらで、離れ離れになる安子と娘のるい。数十年を経て、るいの娘・ひなたとの出会いから、絶縁していた安子はるいと再会し互いを許しあうことに。
「安子は娘のるいを捨てたことをずっと忘れることができなかった業の深い人。でも、大好きな英語の勉強を手放さず、がんばり続けた。そのことが最終的に母娘の和解につながりました。 あきらめないでひとつのことをやり続けることは神様が見ているのだ、という希望がここにはあります」(木俣さん)
物事を斜に構えて見るような物語が少なくない時代に、ちょっとストレートだけれど、何かを信じて続けることの価値を謳ったからこそ、高い人気も誇ったのでしょう。ふたりはどうなる、 安子とるいは出会えるのか、とラストも大いに盛り上がったのでした。
竹井千代/『おちょやん』(2020年度後期 放映)
娘にお金をせびる、朝ドラ史上でも最悪の父親像を演じたのはトータス松本さん。「トータスさんだったから、多少許せたかも」
たまにはハードボイルドに 生きるのも正解です。
実母を亡くし、継母を迎えた非情な父にはお金と引き換えに幼くして奉公に出され、奉公先で身を粉にして働く千代。やがて演劇に出会い女優に転身、人気劇団の作家と結ばれるけれど、夫が不倫相手と子どもを作り離婚。
父にも夫にも裏切られて不運としか言いようがない状況です。その彼女が自分を捨てた父に投げかけるのが「うちは捨てられたんやない。うちがあんたらを捨てたんや!」という捨て台詞でした。
「子役の毎田暖乃(まいだ・のの)さんが大人顔負けの演技で注目されましたが、これって強気でとってもハードボイルドなセリフ。 肩で風を切る、米倉涼子さん的な言葉なんですよね」(木俣さん)
千代は夫や父親に手痛く裏切られたけれど、一方で自分は人を捨てることはなく、姪を養女にし、自分につらく当たった継母とも和解します。
「不遇をはね返していく千代はとても強くて、懐の深い人なのです。こんなふうに生きることは、普通はなかなかできないけれど、ときには強気でハードボイルドに自分を通すのもいいな、と憧れます」
〝ブギの女王〟の華やかなキャリア、 その陰にあった意外に古風な母として の顔が新鮮でした。
選んだ人
木俣 冬/きまた・ふゆ
フリーライター
著書に『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)、『ネットと朝ドラ』(blueprint) など。朝ドラのレビューは『CINEMAS+』で配信中。
『クウネル』2024年11月号掲載 イラスト/宇多川新聞、 取材・文 /船山直子
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