精神科医・星野概念さんに聞いた、快適な人生のための 「続けるorやめる」選択方法/後編

やめるべきか迷ったり、しないで後悔しないか悩んだり、そんなモヤモヤを払拭し、心を健やかに過ごすヒントをメンタルヘルスのプロに伺いました。

【前編】からの続きです。

よくわからないときは、積極的に保留して待ってみる

———何かを決断する前に、立ち止まって「本当にこれでいいの?」と考えたいところです。

据え置くのも大事だと思います。保留しておけば勝手に変わっていくこともあるので、よくわからないときは保留する。それは消極的ではなく、実は積極的な方法。積極的に保留する。要は待ってみることです。

不確実な状況に身を置くことも、時期によっては大事な気がします。不確実性に耐えるとか曖昧さの中に身を置くというのは、“オープンダイアローグ”という対人支援方法の中でも大事な原則の一つですが、僕はメンタルヘルス従事者だから、特にそう思うんです。物事はそんなに簡単には変わらないから。とはいえ不確実な状況に居続けるのはきついし、変わるのもすごく時間がかかる。最近は物事をコントロールしようとすることばかりに焦点を当てられますが、コントロールをしない、手放すことを少しすると諦められますね。

自分を否定しない見方を身につけるのがかっこいい

———やめられなくて落ち込むと、周囲に流される自分はダメな人間だと思ってしまいがちです。

自分はダメだと思ったときに「本当にダメなのか?」という合いの手がほしいです。「これだけ頑張った人をそんなに簡単にダメと切り捨てられるのか?」と。これはとても難しいことですが、自分を否定し続けないことこそ、大人になったらしてほしいことです。若いときは「自分なんて」と否定し続けることは芸術になるじゃないですか。でも円熟してきたら自分を否定しない見方を身につけるのがかっこいいですよね。

———つまり、自分に自信を持つということなのかなと思いました。

自分というのがここにいたら、ある角度から見ると否定的だけど、ベつの角度からだとまた違う見え方になる。そのフレキシブルな部分を意識するということです。今の自分をべつの見方で捉え直すのは、フレームを変えるという意味で“リフレーミング”というんですが、自分に対して否定的な見方が出てきたときに、どれくらいそれを捉え直せるかは結構大事なこと。簡単ではないし、練習が必要ですけどね。

いちばん大事な ”しない”ことは、身体の声を無視しない

———やってもいいし、やめてもいいということですが、確実にしないほうがいいことは何でしょうか。

間違いなく言えるのは、身体の声を無視しないこと。どんな人でもだんだんと身体の無理が利かなくなってくるもの。だから身体は何かしらのサインを出しているはずです。そのきつさを無視し続けないでください。仕事も忙しく家のあれこれもあるといって、きつくても余裕なくずっと頑張り続けていると、身体の声を無視してしまう。そうすると身体に無理は利かせ続けられないので、どこかで絶対に破綻してしまいます。その場合は、立ち止まって生活を見直し、何をやめるかやめないか、取捨選択を始めてほしいですね。

PROFILE

星野概念/ほしの・がいねん

1978年生まれ。精神科医など。執筆や音楽活動も行う。著書に『こころをそのまま感じられたら』(講談社)、『ないようである、かもしれない発酵ラブな精神科医の妄言』(ミシマ社)など。共著は『自由というサプリ』(リトルモア)など。

『クウネル』2024年11月号掲載 写真/目黒智子、取材・文/綿貫あかね、編集/黒澤弥生

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『クウネル』NO.129掲載

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