エッセイスト寿木けいさんに学ぶ45歳からの生き方ヒント。決断のときは紙に書き出し、お金の見当をつける

Xの140文字レシピが話題の、エッセイストで料理家の寿木けいさん。これから自分が楽しめるために、大人になってからやめたこと、その結果どうなったのか?を伺いました。

猛烈サラリーマン生活と東京暮らしをやめて山梨へ。

「着物のほうがラクなんです」と涼しげな小千谷縮の着物に、沖縄のミンサー帯を合わせ、たすきがけと前かけをして料理を。

「昔はずっと頑張り続けていないと落ちていくと思っていました。子どもとの時間を犠牲にして、猛烈に働いて、どんどん拡大していかなくてはと。でもそんなことは全然なくて、人生のキャリアには波がある。自然の中にいるとよくわかります」

ぶどう畑に囲まれた築130年以上の古民家をリノベーションして暮らす寿木けいさんが、大人になってやめたことは大きく2つ。一つは、18年間勤めた出版社を辞めたこと。もう一つは、25年間暮らした東京生活に終止符を打ち、2022年に山梨に移住したことでした。

お茶を習い始め、野山で摘んできた花を野にあるままに活けるようになった。今日は庭のギボウシをペルシャの古いガラスに。

「娘に重度の障がいがあることがわかったとき、出版社を辞めることは決めていましたが、一番のきっかけは母のひと言でした。娘を生んだとき、『子育てで大事だと思うことを一つだけ教えてほしい」と母に訊ねたら、『親にされてイヤだったことを子どもにしなければいい』と。母はシングルマザーで5人の子どもを育てていたので、家にいつもいなかった。私はそれがイヤだったので、子どもが帰ってきたときは家で迎えてあげたい。そうなると、残業のない職場で働くか、家でできる仕事をするのがいいと思ったのです」

とはいえ、すぐに出版社を辞めたわけではなく、会社員でありながら、個人でできる仕事を模索していたとき、SNSに投稿していた「きょうの140字ごはん」をまとめた初の著書『わたしのごちそう365』を上梓。副業で収入を得ることができるようになったのを機に退職。その後、ベンチャー企業でフルタイムの正社員、とある会社で週3日勤務という働き方を経て、山梨へ。

庭の梅の木から手摘みした甲州小梅を梅干しに。「塩分は18%。大きい梅干しは一つ食べるのを躊躇しますが、このサイズだとちょうどいい。子どもたちも大好きです」

自分で下した決断を、あとから正解に修正する。

「夫が山梨の会社に転職したいと言い出したことは想定外でしたけど、迷いはまったくなかったですね。目の前に現れたものには抗わない性質なんです。世の中にはたくさんの料理家がいて、料理本も毎年数多く出るなか、自分はどうしたら生き残っていけるのかと考えたとき、このままでは広がりがないとは思っていましたし、夫のことを応援したい気持ちもありましたから」

ところが、移住後に夫とは離婚。
「できれば離婚したくはなかったけれど、それも案外悪いことではなかったという感じです。今も彼とは協力しながら子育てしています」

何かを決断するとき、大きな紙にすべてを書き出すのが寿木さんのやり方。仕事をやめた場合、やめなかった場合、離婚した場合、離婚しなかった場合にどうなるのか。

「何のためかというと、経済的な見通しを立てるため。お金の見当がつけば、大体のことは何とかなります。そうして結論に至ったら、後悔しないよう、あとから自分で正解に修正していくというのはありますね」

好きでよく聞いていたバッハの「ゴールトベルグ変奏曲」。「アリア」をどうしても自分で弾きたくなり、月2回ピアノを習っている。

そのために大切なことは、最後は自分で決断し、人のせいにしないこと。そして自分を信じ、今より良くしていこうという諦めない気持ちを持ち続けることだといいます。

山梨での日々の暮らしは、庭仕事に精を出し、お茶やピアノを習い、泳ぎに行ったりドライブをしたり。仕事と子育てをしながらも、自分の時間を確保して充実させているよう。

「東京では、仕事と家庭が分断していましたが、ここでは一生懸命生活していると、それが仕事になるので、全部が一つに繋がってシームレス。時間の使い方を自分で決められるのでラクですね。今は子育てを最優先にして、執筆は昼間の数時間に集中。夕方ワインを開けたら仕事はしません。もっと働ける。でも、働かないんです。自分さえ諦めなければ、必ずまた巡ってくる。50代、60代からでも何でもできると思っています」

「やめたこと」ヒストリー

30代 猛烈サラリーマン時代

40歳 出版社を退社
●編集者をやめた

41歳 ベンチャー企業を退社
●フルタイムのサラリーマン生活をやめた

44歳 山梨に移住
●東京生活をやめた

45歳 離婚/起業
●週1日の東京への通勤をやめた
●社交をしなくなった

PROFILE

寿木けい/すずき・けい

富山県砺波市出身。大学卒業後、編集者として働きながら執筆を開始。25年の東京生活を経て、2022年山梨に移住。築130年の古民家を改修し、紹介制の宿「遠矢山房」を営む。近著『愛しい小酌』(大和書房)ほか著書多数。

『クウネル』2024年11月号掲載 写真/馬場わかな、取材・文/和田紀子、編集/黒澤弥生

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